渡り鳥の道=フライウェイ 渡り鳥がどこから来て、どこへ行くのか、どのようなルートで飛んでいるのかなどは、どのようにして調べるのでしょうか。 最も一般的な方法は、「足環」や「首輪」などのリングを取り付けて放し、別の場所で捕獲されたときに出発地を取り付けられたリングによって特定するという方法です。しかし、この方法は多くの人たちの協力が必要であり、また再捕獲が難しいという問題がありました。 1990年代になって、軽く小さな発信器を渡り鳥につけて、人工衛星で追跡するという調査方法が盛んになってきました。鳥たちが飛ぶ空の道のことをフライウェイと呼んでいます。衛星追跡によって、いままでよくわからなかった渡り鳥の生態やフライウェイの様子がはっきりわかるようになってきました。 バードライフ・アジアの市田則孝さんによれば「たとえばクロツラヘラサギという鳥については、香港で冬で越して、台湾でも300羽くらい見られることがわかっていましたが、どこで繁殖しているのかは、全くわかっていませんでした。色んな国でさんざん調べたけれども謎だったんです。でも、衛星追跡で調べてみたところ、なんと韓国と北朝鮮の間にある非武装地帯(通称38度線)に渡っていたことがわかり、専門家たちも驚いた」そうです。 左の地球儀には、地球上のそれぞれの地域に生息するシギ・チドリ類が、どのような範囲を飛ぶかを示しています。これを見ると、鳥たちは東西方向ではなく、南から北へ、北から南へ、かなりの範囲を移動していることがよくわかります。こうした地球全体の鳥の動きがわかってきたのも最近のことです。こうした動きから鳥インフルエンザなど、鳥を媒介とするウィルスの影響範囲を調べる研究もあります。 他にも、ハチクマというタカの一種の渡りのルートは長い間の謎でした。毎年春から夏にかけては、長野県の安曇野に生息していることはわかっていました。東京大学の樋口広芳教授を中心としたグループが衛星によって追跡してみたところ、秋に長野を旅立ったハチクマは、九州北部、五島列島から東シナ海を渡って揚子江の河口付近に到着、その後、中国を南下して、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマー、シンガポールと東南アジアを歴訪して、最後にインドネシアのスマトラ島を経てジャワ島に到着しました。春になると同じ道をたどって戻ってくると思っていたら、ミャンマーあたりから西にずれて北上し、朝鮮半島の付け根まで旅をして、そこから南下してソウルから対馬を経て九州に入り、そこから瀬戸内海を東に進んで長野に戻ってきたことがわかりました。その距離は往復で2万2000kmに及び、直線的には飛ばず、大きく迂回するルートでした。なぜ迂回するのか、また春と秋とでどうして違うルートを飛ぶのか、その理由はまだよくわかっていないと言います。衛星による追跡がスタートしてから、フライウェイの解明はめざましく進みましたが、新たな謎も生まれているようです。 |