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地球は宇宙の観光名所?

 日食といえば、やはり皆既日食です。部分日食や金環食も、天文現象としては面白いのですが、感動の大きさでは皆既日食にはかないません。筆者はこれまでに2度、皆既日食を見ていますが、この体験を言葉で説明するのは本当に難しいのです。インターネットを探せば、写真や映像はたくさんあるので、ほとんどの人が、皆既日食がどんな現象かは、わかっていると思います。しかし実際に体験する皆既日食は、本当に言葉で表すことができない、全身での体験なのです。
 黄昏時のような世界がしばらく続いた後、美しいダイヤモンドリングが一瞬見えたかと思うと次の瞬間、劇的に世界が暗くなり、黒い太陽が天空に出現します。大勢の人たちで見ていると、その瞬間には一斉にどよめきが起こります。鳥や犬など、動物たちも興奮しはじめます。それまでは太陽の明るさで見えなかった金星などの惑星も見えるようになります。気温が下がり、どこからともなく風が感じられるようになりますし、360°どこを見ても夕焼けになります。こんなにすごい体験なのに、皆既日食が続く時間は平均すると2分ほどという短さです。皆既日食を体験した人は、必ずと言っていいほど何度も体験したくなります。

1999年8月11日 筆者がイラン・イスファハンで撮影した皆既日食の様子。皆既日食の時のまわりの変化を撮影しようとしてみたのですが、かなり慌ててしまいました。 (撮影:上田壮一)

 さらに、宇宙全体で考えても、とても珍しい現象だと言うことができます。だって、そもそも地球から見た月の大きさと、太陽の大きさがほとんど同じなんて、ありえない偶然ではないでしょうか。地球から太陽までの距離が1億5000万キロ、月までは38万キロ。大きさも距離も全く違う2つの天体が、地球からみてほとんど全く同じ大きさなんて! もし宇宙人向けの旅行会社があったら、地球は間違いなく観光名所になるのではないかと思います。

 「皆既日食を体験したい!」そう思った人も多いと思いますが、実はそう簡単ではありません。太陽と月と地球が一直線になるわけだから、新月の時に毎回見られそうなものですが、実際にはいつでも日食になるわけではありません。月の軌道がほんの少し傾いているため、1年に1回くらいの頻度になります。さらに、左の地球儀で見てもわかるように、地球上で見られる場所は毎回違います。皆既日食が見られる場所を、皆既帯と呼びますが、この帯が陸地を通るとは限りませんし、陸地を通ったとしても、人が簡単に行ける場所でない場合もあります。また、もし月が地球から遠い距離にあり、太陽よりも小さいと金環食になってしまいます。さらに、運良く?その場所に行けたとしても、もし一番大事な瞬間に太陽を雲が隠してしまったら見ることはできません。そんなわけで、やはり皆既日食を見るのは、なかなか大変なのです。

ミールが撮影した月の影
1999年8月11日 ロシアの宇宙ステーション、ミールから撮影した月の影。この影の中で皆既日食が見られる
©CNES
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