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人類移動の3つのフェーズ

 分子人類学者の篠田謙一博士によると、人類の移動と拡散には3つのフェーズがあるといいます。

 最初のフェーズは、アフリカから狩猟採集民が世界に広がっていった段階で、初期拡散と言われています。6万年前にアフリカから出て行って世界に拡がり、農耕を始める1万年くらい前までの人類の動きです。

初期拡散

監修:篠田謙一(国立科学博物館)

 次のフェーズが、農耕拡散の段階。1万年ほど前に狩猟採集民の中から現れた農耕民たちが、作物を持って、その作物の栽培に適した新たな耕作地を探しながら移動をしていった時代です。

農耕拡散

出典:Bellwood and Renfrew 2003を改変

 最後のフェーズは、国家ができ、政治的な事情で領土を広げるために移動する、あるいは逆に支配されて難民化して出ていくような動きです。この段階では、男女の動きに差が見られることもわかっています。たとえば、アンデスの住民たちが持っているミトコンドリアDNA(女性の系統)は、もともとその土地にあったものが8割ですが、Y染色体(男性の系統)については8割以上がヨーロッパ系だということがわかっています。つまり500年前にスペイン人が征服してからはヨーロッパの男性のDNAが一方的に入ってきて、子孫を増やしていったことになります。

 また初期拡散、農耕拡散の時代は地域ごとに独特のDNAが作られていたのに対して、大航海時代以降は、グローバルに人が動くようになり、現在は世界的にDNAのシャッフルが起き始めているという状況になっています。

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