増え続けるメガシティ
今回のアースリウムの地球には、国連経済社会局(UN DESA)の2011年版リポートに基づき、1950年から2025年までのメガシティ(人口1,000万人を越える都市)をプロットしてみました。
2010年の都市人口ランキングの詳細を記すと以下のようになります。
1 | 東京(日本) | 3,693万人 |
2 | デリー(インド) | 2,194万人 |
3 | メキシコシティ(メキシコ) | 2,014万人 |
4 | ニューヨーク(アメリカ) | 2,010万人 |
5 | サンパウロ(ブラジル) | 1,965万人 |
6 | 上海(中国) | 1,955万人 |
7 | ムンバイ(インド) | 1,942万人 |
8 | 北京(中国) | 1,500万人 |
9 | ダッカ(バングラデシュ) | 1,493万人 |
10 | コルカタ(インド) | 1,428万人 |
11 | カラチ(パキスタン) | 1,350万人 |
12 | ブエノスアイレス(アルゼンチン) | 1,337万人 |
13 | ロサンゼルス(アメリカ) | 1,322万人 |
14 | リオデジャネイロ(ブラジル) | 1,187万人 |
15 | マニラ(フィリピン) | 1,165万人 |
16 | モスクワ(ロシア) | 1,147万人 |
17 | 大阪(日本) | 1,143万人 |
18 | カイロ(エジプト) | 1,103万人 |
19 | イスタンブール(トルコ) | 1,095万人 |
20 | ラゴス(ナイジェリア) | 1,079万人 |
21 | パリ(フランス) | 1,052万人 |
22 | 広州(中国) | 1,049万人 |
23 | 深セン(中国) | 1,022万人 |
同リポートの2025年予測ではキンシャサ(コンゴ民主共和国)、重慶(中国)、バンガロール(インド)、ジャカルタ(インドネシア)、チェンナイ(インド)、武漢(中国)、天津(中国)、ハイデラバード(インド)、ボゴタ(コロンビア)、リマ(ペルー)、シカゴ(アメリカ)、バンコク(タイ)、ラホール(パキスタン)、ロンドン(イギリス)の14都市がメガシティに加わります。
※国連の統計は行政区分ではなく「都市集積地域(urban agglomeration)」でカウントされているため、例えば東京の人口は東京都だけでなく横浜市などの周辺地域も含みます。
持続可能な都市に向けて
世界最大のメガシティ「東京」(© Tomo.Yun)
国連人口基金によれば2008年に既に世界の半数が都市に住むようになり、人口が90億人を越える2050年には3分の2が都市に住むと言われています。地球儀を見ていただくと一目瞭然ですが、中国やインド、アフリカなどの新興国に巨大都市が多数出現することが見て取れます。人と自然環境が共生する持続可能な社会を構築していくために、都市の持続可能性をどう考えるかは避けては通れない課題です。さらに気候変動の激化が予想されるなか、自然災害にも対応する都市づくりは緊急の課題と言っても良いかもしれません。
そこで、気候変動と都市の関係について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の論文執筆者でもある、国立環境研究所環境都市システム研究室の肱岡靖明室長にお話を聞いてきました。
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専門家に聞いてみた!
Q:気候変動が都市に与える影響は?
人が集まっているところを都市と呼びます。特徴は、そこに資産が集中しているということです。また、一番身近な場所ともいえます。生活している場所。魅力的なものが集まっていて、人がそこに遊びに行きたい、住みたいと思う場所。経済活動もあり、大量の情報発信がされている場所。ですから、守らなければならない場所であることは間違いありません。人や資産が集まっているため、災害時の被害が大きくなりやすいことも特徴です。
これから発展していく都市と、既に大きくなってしまった都市とでは気候変動への対処の方法は異なります。これから発展する都市はリープ・フロッグ(leap frog)といって、先進都市が既に経験して解決した問題を飛び越えてしまうことができる可能性があります。たとえば日本は公害を経験して、その後良くなっています。ロンドンでもコレラが発生したことがきっかけで下水道を整備するようになりました。そうした事例に学べば、最初から問題を回避する仕組みを導入したり、高効率の設備や機器を使ったりすることができます。今は情報もあり、お手本となる事例もありますから、計画を立てるときに織り込んでいけば良いわけです。
一方、既に発展を遂げている都市に「持続可能」という考えを導入していくのは難しい課題です。東京を例に考えてみましょう。
気候変動が影響を与える分野は大きく分けると5つあります。水資源、防災、農業、生態系、そして健康。このうち特に水資源、防災、健康は都市とも強い関係があります。「健康」で考えると、たとえば「暑さ」があります。デング熱、熱中症などニュースで見たこともあるでしょう。東京の気温は過去132年の間で3.3℃も上がりました。日本の平均は100年あたりで1.14℃。東京の気温上昇が高い原因は温暖化と共にヒートアイランドの影響もあります。
「水資源」に関しては、1200万人を超える東京都の人口や都市活動を支えるために、水道需要を5年に1回発生する規模の渇水に対応することを目標としていますが、これは、10年に1回を目標としている全国の主要水系や、過去最大の渇水への対応を目標としているニューヨークなどの諸外国の主要都市と比べて、渇水に対する安全度が低い計画となっています。気候変動によって降水量や積雪量が減ると、より安全度が低下する恐れがあります。
「防災」に関しては、実は東京はすごく高いレベルで守られている都市の一つです。たとえば堤防のすぐそばや海抜ゼロメートル以下の地域にも多くの人が住んでいますが、スーパー堤防や防潮堤、高機能の排水ポンプでしっかり守られています。また、短時間の強い雨によって下水管から雨水があふれてこないように、巨大な下水管や調整池が地下に設置されています。しかし、これらは今の気候レベルに対して設計されているものなので、気候変動によって強い雨が増えると大きな被害が生じるかもしれません。対策には非常にたくさんのお金がかかります。長期的に考えると、雨水をもっと浸透させるために緑を増やすことも大事ですが、人口が集中している東京は土地に余裕がないのも課題です。
Q:都市における気候変動適応のポイントは何でしょうか?
ポイントは3つあります。まず、しっかりモニタリングして変化を知るということ。次に今できることとして、情報を駆使してソフトの対策していくこと。そして長期的な視点に基づいた対策です。
まずモニタリング。国立環境研究所でもスーパーコンピューターを使って気候変動の予測シミュレーションを実施していますが、その結果は将来シナリオによって大きく異なります。今後、努力して温室効果ガスを削減すれば未来は変わるし、努力しなければ、もっとひどくなるかもしれません。将来の気候がどう変わるかわからないので、過去から現在までの変化を調べて把握しておく必要があります。計算機で想定された気候変化の速度と、現実の速度が同じ程度なのか、はずれているのか、もしくは予測している一番高い数値よりも、もっと高い変化を記録しているのか、など、現実の変化をモニタリングすることによって、どの将来の気候シナリオを用いればよいか検討することができます。
次に、今すぐできること。それはソフト対策です。スマホを持っている若い人であれば、警報やデータをみて危険が迫っていることを判断できるかもしれません。東京の下水道局が提供しているアメッシュという、250メートルメッシュの高精度のレーダー雨量計の情報は誰でも利用できます。国交省のXバンドMPレーダーの雨量も利用可能で、リアルタイムに自分のいるところの雨雲や雨量が一目瞭然にわかります。
ウェブサイト「東京アメッシュ」。東京都下水道局がレーダー雨量計システムを使って降雨情報を提供している。アプリもダウンロード可能。
現状はこうしたシステムがあることを知らない人の方が多いかもしれません。これに警報のアルゴリズムを付けて配れば、警報が鳴れば「今日はもう打ち合わせを早く終えて帰ろう」などの判断ができるようになりますね。ほかにも、川の増水などは、その場所に降っている雨ではなく、上流に降った雨が影響するので油断してしまうことがあります。行政も、どの川のどの岸でどれだけの人数が遊んでいるかは把握できません。川にいる人自身が、手元の情報で判断できるツールがあれば危機回避がしやすくなります。また、日々の生活で極端な気象現象に対応しながら生きていくノウハウも必要になってくるでしょう。たとえば、暑い日の次の日は熱中症になりやすいので、寝るときにしっかり水分をとっておくようにしようとか。
3つめが長期的な視点です。現状の対策は近視眼的なものがほとんどです。3年から5年、長くても10年程度のスコープで施策が検討されています。しかも気候変動は50年から100年といった長期的な視点も重要です。さらに、人口減少や少子高齢化、インフラの更新なども合わせて、長期的に視点で社会のあり方を考えていかなくてはなりません。たとえばイギリスでは、様々なシナリオを作って議論しています。海面が30cm上昇したら、今ある施設でなんとかしよう。しかし50cm上昇してしまったら新しい堤防をつくり始めようなど、様々なシナリオを描き、対策の準備をしています。一方、日本人は一度決めたことは必ず実行する実直性はありますが、もしかしたら非常に難しいことや実現が困難なことも含めて、「いろんなケースを考えてみました」というシナリオアプローチは得意ではありません。しかし、今から考えておかないと、何十年後かの東京を守ることはできません。
Q:もともと自然災害が多い日本は適応策が得意なのでは?
現在、国の適応計画が検討されており、ようやく2015年の夏に計画が発表される予定ですが、日本の適応策が遅れている(ほとんど無い)といわれるのは、将来の気候変動を考慮した計画が無いからです。しかし実際にはスーパー堤防もあれば、巨大な雨水貯留施設もあれば、高性能の排水ポンプも設置されています。治水対策もしてきたし、熱中症警報も出る・・・だから、適応策に資する対策が本当は揃っているはずです。気候変動の影響も現状の施設で十分に対応可能かも知れません。ただ、想定以上の雨が降った場合に既存の対策はどこまで有効で被害が生じた場合にはどのように対処すべきか、既存の対策では対処不可能な気候条件になってきたとき、どのような手順で何を行っていくべきかなど、変わりゆく将来想定(気候や社会システム)を十分に検討できていないのです。この点が日本でこれから適応策を推進する上で重要な点だと思います。
一方、適応策は公助だけに依存しても間に合わない可能性もあるので、自助、共助で対応していく必要もあります。昔だったら「高橋さんのおばあちゃんが最近、公民館に来ていないよ」とか、わかるわけですけれど、今は隣の人が何をしているのかさえわからない。生命を救うためには、コミュニティ力も重要です。都市では特にこのコミュニティ力が減退してきているのではないか、と心配しています。また歴史に学ぶのも一つの方法です。今はきれいに整地されて家が建っているけれど、実は危ないというところはいくらもあります。その土地の過去を調べると、以前は洪水が頻発していた、ということがわかれば対策のレベルも変わってくるでしょう。しかし、このような重要な情報がきちんと伝達されないと、被害がより大きくなる懸念があります。
Q:肱岡さんにとって「地球ってどんな星?」でしょうか
「変化する星」だと思います。これから人口が90億人、100億人になるというのは大きな変化です。メガシティもどんどん増えています。都市を持続可能な状態にするためには、今の状況を変えて行かなければならないと思います。これまでは都市が無秩序に大きくなってしまった。情報も知恵もあるのに、なかなか変わっていかない。気候変動への適応を通じて、これからはいい方向に変化して欲しいと思っています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第二作業部会のクリス・フィールド共同議長が「気候変動適応はビジネスチャンス」と言っています。これまでは「気候変動の影響で何億人が水不足、何千人が沿岸被害」など、甚大な影響を示すリポートが中心でした。適応策でその被害を減らせるという論理だったわけですが、それだけじゃなくて、プラスの影響も考えるようになってきました。ヨーロッパのある町で、一度洪水被害があって、その後対策をした。今では「うちの町は洪水対策バッチリだから安心して住めるよ」と売りに使っています。そういうしたたかさも必要でしょう。
今、一般向けにIPCCのリポートをわかりやすく解説する冊子を作っていますが、暗くなる世界を示すのではなく、これからどう変わっていくか、チャンスやプロセスを示すものにしたいと思っています。地方都市などが「適応策なんて古い。うちの町は一時間100mmの雨が降ってもこの手順に従えば生命も大丈夫だし、新しい農作物を作って売れているよ!」とか、気候変動適応を先取りしてチャンスに変えていってもらえると、研究をしている甲斐があります(笑)。「気候変動時代を明るく生きるための10の方法」を、ワークショップでみんなで探してみるのも面白いかもしれないですね。
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