国民とはイメージとして心に描かれた政治的共同体であり、それは18世紀のヨーロッパにおいて、新聞と小説によって初めて成立させられた。そんなフィクションでしかないもののために、しかも実際には格差や不平等があるのに、なぜ人々は国家に忠誠を誓い、「敵」と戦って殺し、我が身をも捧げてきたのか。日本を含む各国の歴史や現状を精査し、国民国家が空想の産物でしかないことを立証した名作。近現代史の理解には欠かせない。
国民は一つの共同体として想像される。なぜなら、国民のなかにたとえ現実には不平等と搾取があるにせよ、国民は、常に、水平的な深い同志愛として心に思い描かれるからである。そして結局のところ、この同胞愛の故に、過去二世紀にわたり、数千、数百万の人々が、かくも限られた想像力の産物のために、殺し合い、あるいはむしろみずからすすんで死んでいったのである。