Art & Design
2013.07.16 瀬戸 義章
映画を観ていて、バングラデシュで市の廃棄物担当者と交わした、こんな会話を思い出しました。
「リサイクルって、〈再発見〉することですよね」
「まったくその通り。生物はいつでも生き方を発見してきた。知ってるかい? 大昔、酸素は猛毒だったんだよ。でも、ある生き物がその利用方法を〈再発見〉したおかげで、今の私たちがあるんだ」
この映画は「ごみ」を通じて、人の偉大さを再発見する作品です。
舞台となるのは、ブラジルにある世界最大規模のごみ処理場「ジャウジン・グラマーショ」。そこではおよそ3000人が、ごみ山の中から、空き缶や古紙、プラスチックといったリサイクル資源を集める「カタドール(回収屋)」として働いていました。彼らは音を聞いただけで、そのプラスチックがポリプロピレンか、ポリエチレンかを判別することができます。今はガラスがキロ当たり0.06ドル(約6円)で、ペットボトルはキロ当たり0.6ドル(約60円)、ということを知っています。
映画を観て驚いたのは、カタドールたちの意識の高さでした。ある登場人物は、胸を張ってこう言います。
「家庭で捨てられるごみは1キロだが、そのうち半分はリサイクルすることができる。私たちは、大地や海を汚すものを集めて、リサイクルするという仕事をしているんだよ」
ブラジル出身の世界的なアーティストであるヴィック・ムニーズも、心を動かされた一人です。最初は廃棄物を使って「風景」を描く予定でしたが、カタドールたちと出会い、交流していく中で、ごみ処理場で働く「人間」の肖像を描こうと決めました。
ヴィック・ムニーズの作った作品は、イギリスの権威あるオークションで、6万4097ドル(約630万円)という高値で落札されます。その資金を基にカタドールたちは、リサイクルセンターや診療所、保育所、技能訓練センターなどを開設します。
社会派ドキュメンタリーを多く手がけてきたルーシー・ウォーカー監督によるこの映画は、2011年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど、世界的に高い評価を得てきました。それがようやく、7月20日から渋谷のユーロスペースで観ることができます。「ごみと貧困」という重いテーマを扱った本作ですが、視聴後は素晴らしい爽快感と感動を味わえます。ぜひ劇場へ足を運んでみてください。
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