Art & Design
2014.04.09 岩井 光子
モノがあふれている今の時代、私たちは「捨てる」ということを無意識に繰り返しています。作っては捨て、使っては捨てる日々―。そんな大きな、大きな消費の流れに抗うように、企業から出る端材やデッドストックといった「要らないモノ」に光を当てたプロダクト案を募り、商品化まで実現させてみようという面白い試み「1万人のクリエーターミーツPASS THE BATON」が、新しいリサイクルをコンセプトにしたショップを運営するPASS THE BATONと、クリエイティブサービスを提供するロフトワークの共催で実施されました。
リサイクル素材を提供した企業は、オーガニックコスメのニールズヤード レメディーズ、おかきの老舗の赤坂柿山、現代風のステテコを提案するsteteco.com、めがねチェーンのJINSの4社。これらの企業から出る「要らないモノ」とは、使用済みの化粧品ボトルや割れたおかき、デッドストックの贈答用缶、ラクダ色の筒型生地、めがねフレームの端材などなど。これらの素材が秘めた特性や長所に改めて気持ちを寄せ、クリエイティブの力で新たな命を吹き込んでもらおうとアイデアを公募したところ、267もの案が集まりました。
1年間のプロジェクトの様子をまとめた映像
昨年4月から10月にかけ、計4回行われたデザイン公募後の審査は、時にとても難航したそうです。リサイクルと言えば、使用済みのモノや不要のモノを粉砕して原材料に戻す方法が最も一般的ですが、クリエイティブの力で新たな命を吹き込むということは、何でもアリではなく、「なぜこの素材を使うのか」という必然性に強い説得力が要るからです。例えば、素材がたどってきたストーリーが作品からにじみ出ていればより素敵だし、シンプルなデザインでありながら「へー、なるほどね!」と思える面白さが伝われば、買い手に新しいリサイクルの魅力を実感してもらうチャンスになります。そして、今回の企画のゴールは具体的な商品化だったため、製造過程のコストや手間が現実的であるかどうか、実際に売れるかどうかも大切な審査ポイントとなりました。
採用案がしぼられた後もPASS THE BATONとデザインのブラッシュアップなどが行われ、最終的に採用されたのは7つのアイテム。完成作で目をひかれるのは、例えばニールズヤード レメディーズ定番の青いガラスボトルの色合いを生かしたキャンドルスタンド。秋山かおりさんのデザインです。青いボトルを通した炎は白く見えて美しく、穏やかな気持ちにさせてくれます。また、JINSの色とりどりのめがねを作る際に出るフレームの端材を使ったアヒル型のめがねスタンドも、とてもかわいくできています。将来的にJINSとのコラボも探れそうな、眞野惠介さんのデザインです。「良い意味でクスッと笑顔になれる」、審査員を務めたキギからはそんな感想も聞かれました。
既にあるものを上手に生かして、ストーリーのある商品を作る―。正解もないまま、感性をフル回転させてたどりついた新しい見立てを具体的なカタチに落とし込んでいく作業は、クリエーターにとってはもしかしたら一からモノを作るよりずっと難しいことだったかもしれません。でも、こういった現代の「錬金術」のようなクリエイティブのすばらしさを応援する買い手が増えていけば、日本のモノ作りに新しい風を送り込むことができるような気がします。
完成したリサイクルプロダクトは4月13日まで表参道のPASS THE BATON ギャラリーと渋谷のFabCafe Tokyoで展示販売中です。商品はサイトを通して買うこともできます。
関連するURL/媒体
http://www.loftwork.jp/news/2014/03/20140319_ptb.aspx