Art & Design
2014.07.17 河内 秀子
プロダクトデザイン学科のヴェーバーさん(左)とテキスタイルデザイン学科のグロンブさんのコンビ Photo by Hideko Kawachi
今夏は7月8日~10日に開催された、ベルリンのファッションウィーク。ワールドカップの盛り上がりにすっかり話題をさらわれてしまった感はありましたが、今回で10回目を迎えた「GREENshowroom」のサロンショーには、前・緑の党党首レナーテ・キュナストなどのエコセレブのほか世界各国400人以上の招待客が集合。70以上のルックが紹介され、盛り上がりました。
ショー会場の一角では、若手デザイナーのプレゼンテーションが行われていました。そこで、気になるブランドを発見しました。
(c)Blond & Bieber, Algaemy
真白なスカートの上に水彩画のように広がる淡いグリーンとオレンジ色の模様。ターコイズブルーが水玉のように飛び散った白いキャンバス地の靴。その前に置かれた緑や赤の液体が入ったフラスコと、手押し車のような機械の写真。いったいこれは何なのでしょうか?
「これは"Algaemy"です」と、ラザ・ヴェーバーさん。ヴァイセンゼー芸術大学に在学中の彼女が、同級生のエッシー・ヨハンナ・グロンブさんとともに立ち上げたデザインスタジオ「Blond & Bieber」のプロジェクトは、ほんの少しの光と水、二酸化炭素で微細藻類(マイクロアルジェ)を培養し、それを絵の具にしてテキスタイルを染め、洋服や靴を作るというもの。"錬金術"(alchemy)と"海藻"(Alge)を組み合わせた名前どおり、最初のアイデアは、不要とされているものから、価値あるものを生み出そうというものでした。
「日本では食用にされることもあり、海藻が身近にあると思いますが、ドイツではどろどろとした海のゴミのようなイメージが強い。でもフラウンホーファー研究機構(欧州最大の応用研究機関)の力を借りて培養したものは、淡いピンクからオレンジ、深いブルー......想像もつかない多彩な色あいでした。微細藻類の科学的な利用法は既にいろいろと研究されていますが、私たちは美的にこの可能性を追求し、ファッションに応用する、というアイデアが浮かんだのです」
6万種類以上あるという微細藻類の中から15種類を選び、布を染めてみたところ、緑藻は暖かみのある褐色に、スピルリナは輝くような緑色に発色しました。実はこの「微細藻類」、培養は簡単かつ安価。"Algaemy"によって、誰もが気軽に自らの手でサステナブルな「色素」「絵の具」を作ることが可能になるのです。培養した微細藻類に染料用の媒材を混ぜ、アナログな印刷機のローラーに伸ばしてコロコロと布の上を動かすと、思いもよらない不思議な模様が生まれます。「布として販売するのではなく、この布を使って自分たちの手で縫ったり、デザインを実現してくれる地元のブランドとコラボレーションしたい」とヴェーバーさん。靴は、ベルリンの靴メーカー「Trippen」に依頼したもの。素材を生み出すところから、プロダクトまで。全ての行程を自らの手で行う―これが最終的な目標だという彼女たち。
エコやフェアトレードの素材を使うのではなく、ゼロから自らの手で素材を生み出し、形にする。これこそ「未来のファッション」のあり方なのかもしれません。
関連するURL/媒体
http://blondandbieber.com/algaemy