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Art & Design

手を動かして歴史に触れるー18世紀のユダヤ教会堂の天井画を復元

2015.04.11 岩井 光子

Copyright 2014 Trillium Studios.

今の学習は、テキストを使って物事を間接的に学ぶことがほとんどです。自らの手を動かして必要なモノを作り上げる経験によって、より幅広い知恵や自立心が身につくことを、私たちは忘れかけているのかもしれません。

アメリカではこうした傾向に抗うように、近年暮らしのサイズに沿った小さな家を自ら建てる "セルフビルディング"がひとつのムーブメントにもなっています。マサチューセッツ工科大で彫刻を教えるリック・ブラウンとローラ・ブラウン夫妻も教室を飛び出し、"手を動かすことによって学ぶ"(learning by doing)ことの学習効果の高さを示していこうと、2002年にNPO「HANDS HOUSE STUDIO」を立ち上げました。これまでのプロジェクトでは、地元の動物園のゾウが使うおもちゃを生徒たちがデザインしたり、専門家とタッグを組んでアメリカ独立戦争時に開発された世界初の潜水艇とされる「タートル潜水艇」のレプリカを作ったりと、ユニークな活動をしてきました。

HANDS HOUSE STUDIOのディレクターを務めるリック・ブラウンは、モノを自ら作ることで、「学びが立体的になる」と言います。例えば、昔の木製道具を復元する場合でも、「できる限り正確に再現しようとすれば、必然的に当時の社会、政治、経済についても広く学ぶことになる」と。HANDS HOUSE STUDIOでは、製作過程でも現代の便利な工具を使わず、当時の道具を使うことにこだわります。リック・ブラウンは「俳句を英訳してもいろんなニュアンスが抜け落ちてしまうのと同じように、作ることは言語と同じ」。当時の道具を使うことでその時代の生活や地域の特色について、より理解は深まると説明します。

そんなHANDS HOUSE STUDIOが10年の歳月をかけて、昨年11月にようやく完結した一大プロジェクトがあります。第2次世界大戦時にナチスによって破壊されたポーランド(現ウクライナ)、Gwoździecのユダヤ教教会堂(シナゴーグ)の天井と天井画を再現するというものです。18 世紀に建てられた木造シナゴーグの再現には、生徒のほかに歴史家や建築家、職人、芸術家など16 カ国から約300人がチームを組んで取りかかりました。モノクロ写真しか残されていなかったために、大きな壁となった絵の彩色では、中世の画家の工房のようにアマチュアの生徒からプロまで一堂に集まってワークショップ形式をとりながら、様々な動物や曲線模様や古代文字などをコツコツと描き、仕上げていきました。

Gwoździecのシナゴーグのモノクロ写真をチェックするブラウン夫妻  Copyright 2014 Trillium Studios.

ポーランドのユダヤ人を、貧しいコミュニティーで暮らす人たちだと認識しているアメリカ人が多いなか、Gwoździecのシナゴーグは彼らが裕福で豊かな生活を送っていたことを示していると言います。リック・ブラウンは今回のプロジェクトで最も重要なのは、「世界に誇る洗練された芸術を築き上げてきた東欧ユダヤ人たちの豊かさを知ったことだ」と話しています。それは手を動かしてシナゴーグの歴史に丁寧に触れていった彼らならでは、の気づきだと言えます。

Copyright 2014 Trillium Studios.

美しい天井画は2013年、ワルシャワのゲットー跡地にオープンしたばかりのポーランド・ユダヤ人歴史博物館に設置され、展示の目玉になっています。製作過程はドキュメンタリー映画「Raise The Roof」にまとめられ、来月からアメリカやヨーロッパで順次開かれるユダヤ映画祭などに出品される予定です。



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岩井 光子