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今月のレコメンド:
インドの手仕事による絵本「世界のはじまり」

2015.12.17 宮原 桃子

「世界のはじまり」バッジュ・シャーム/ギーター・ヴォルフ・作、青木恵都・訳、出版社・タムラ堂

世の中には、数え切れないほどの本があふれています。子どもの頃から数えれば、人生でいったい何冊の本を読むのか想像もできないほどですが、本当に心に残る本、ずっと残しておきたい本は、恐らくそう多くはないのではないでしょうか。今月は、さまざまな意味で、ずっと残しておきたいと思える絵本「世界のはじまり」をご紹介します。

この絵本は、インドのゴンド民族に伝わる創造神話をもとに、生命と世界の誕生や、さまざまな命のつながり、時の流れや季節の巡り、生と死などの循環といったテーマを、ゴンド・アートの素晴らしい絵とシンプルな文章で描いた本です。

出版社は、インド南部のチェンナイにある「ターラー・ブックス」。世界最大の子どもの本の見本市「ボローニャ国際児童図書展」のコンクールで、「夜の木」「水の生きもの」などの絵本が数々の賞を受賞してきました。特筆すべきは、「世界のはじまり」を含むこれらの本が、小さな工房の約20人の職人たちの手作業で一冊ずつ作られていることです。古布を材料とした手漉き紙にスクリーンプリントを施し、製本は糸を手でかがり、表紙を手張りして仕上げます。1年間に約2万5000冊が世界中に届けられています。本にはシリアルナンバーが手書きされており、世界に一つしかない一冊と言えるでしょう。


「世界のはじまり」メイキング映像

ターラー・ブックスの工房は、フェアな賃金や労働者間のヒエラルキーのない対等な関係、労働者に対するさまざまな支援(住居・食事の提供、子どもの教育費補助、技術訓練、無利子融資など)といった独自のフェアトレード基準によって運営されており、職人たちは共同生活を営みながら働いています。本の内容や絵だけでなく、製造工程そのものやかかわる人びとへの配慮にも、きちんとしたこだわりがあります。

そして、この絵本の日本語版を手掛けているのは、小さな"ひとり"出版社「タムラ堂」。タムラ堂の田村実さんは、2007年にボローニャの展示会でターラー・ブックスの「夜の木」に出会いました。日本で出版したいという想いから、いくつもの出版社に打診したものの実現せず、ついには自分で出版社を立ち上げ、今も1人で運営しています。2012年にタムラ堂が出版した「夜の木」は、重版されるたびに品切れの状態が続くほどの大きな反響を呼び、これまで約5000部が完売しました。「世界のはじまり」は、この「夜の木」に続く絵本として、注目を浴びています。


「夜の木」シャーム/バーイー/ウルヴェーティ・作、青木恵都・訳、出版社・タムラ堂

この本には、芸術的な絵や開いた瞬間に感じられるインドの薫り、手仕事による温もりなど、他では得られない魅力があります。また、子どもと一緒に読む時には、本に描かれる独特の物語や文化だけでなく、手づくりされた本であること、インドのこと、フェアトレードのことなど、本を通じて子どもに伝えられることがたくさんあると感じます。冬の長い夜の読書に、贈り物に、こんな素敵な一冊を手にとってみてはいかがでしょうか。



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