Art & Design
2016.01.21 宮原 桃子
©東京農業大学「食と農」の博物館
今の時代、衣食住にかかわるほとんどのモノを、私たちは日々お金で買い、消費しています。さまざまなモノが、どのような材料で、どんな環境で、誰がどのようにつくっているのか、そんなことすら考えなくても生きていける社会です。しかし、こうした思考が停止すると、モノの生産の向こう側で起きている環境破壊、生産現場の劣悪な労働環境、安全性の軽視など、さまざまな問題が深刻化するばかりです。また、簡単に買えるものは、簡単に使い捨てられ、簡単にまた新しいものを買う、という無駄の多い消費サイクルが浸透しています。
そんな現代の暮らしを振り返り、これからの暮らしかたを考えるヒントをもらえるのが、今月皆さんにおすすめする展覧会「女わざと自然とのかかわり―農を支えた東北の布たち―」(場所:東京農業大学「食と農」の博物館、3月13日まで開催)です。
この展覧会では、東北地方の農家で古くから受け継がれてきた「手わざ」を伝えるものとして、普通の人びとが日常のなかで作った布や糸、野良着や日常着、敷布や袋などが展示されています。これらは、東北地方で土地に伝わる手わざを守る活動をする「女わざの会」(岩手県)に、地域の女性たちから「どうしても捨てられないから」「私が居なくなったら焼かれてしまう」「人前には出せないものだけど」と持ち込まれてきたものです。あわせて、東京農業大学「食と農」の博物館所蔵の東北の布や古農具も展示されています。
展示されている布や服は、麻や木綿、絹のほか、身近に手に入る植物、使い古した素材を使って、知恵と工夫でつくられたものばかりです。また、手で紡いだ糸、手織りの布、手づくりのボタンや刺繍(ししゅう)から見えるのは、古くから受け継がれてきた暮らしの技です。魅力的なかわいらしい刺繍や布使いも多く、そうした遊び心は日常のなかの手仕事・手わざならではだと感じます。
またこの展覧会は、子どもを連れていくのもおすすめです。私も子育てをするなかで、子どもにはさまざまなモノが「ボタンを押せば、ポンっと出てくるものではない」と折々に伝えています。言葉だけでなく、日々の生活のなかで衣食住にまつわるさまざまなモノを自分たちでつくってみることや、今回の展覧会のような場で実際に見たり触ったりすることは、子どもがこれからを生きる上でとても大切な機会になるでしょう。女わざの会代表の修紅短期大学名誉教授の森田珪子さんも、こう書かれています。「経済成長という名目のもと『消費は美徳』という言葉に乗って、衣食住をすべて金銭だけに頼って良いものだろうか。(中略)大人がものを作る姿を子どもに見せることが大切なのではないだろうか」
この展覧会は、日常に使うモノの成り立ちや背景を考えるきっかけになるとともに、「知恵と技を使って暮らす」、「そこにある資源やモノを大切に長く使い続ける」といったシンプルな生きる知恵について改めて気づかされる、良いきっかけになるのではないでしょうか。
関連するURL/媒体
http://www.nodai.ac.jp/syokutonou/recentNews/detail.php?new_id=504