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2016.02.17 河内 秀子
Berlinale(ベルリン映画祭)のロゴは、市の紋章でもある「熊」。写真は映画が始まる前に流れる映像。熊モチーフが花火のように現れ、すうっと消えていく
2月11日、第66回目のベルリン国際映画祭が開幕を迎えました。三大映画祭のひとつとして知られるベルリン映画祭ですが、カンヌやベネチアのようなきらびやかな映画祭とはまた一味違う、社会派の映画に重点を置いたセレクションが魅力です。
初めての開催は1951年。第二次世界大戦が集結し、東西ドイツに分かれてから2年。当時東ドイツに囲まれ孤立していた西ベルリンを拠点に、この町を「自由な世界へのショーウィンドウ」としてアピールするために始まったという歴史的背景があるからです。
2月21日までの10日間で434作品が上映される予定のフェスティバル、今年のテーマは「Recht auf Glück(幸せの権利)」です。映画祭ディレクターのディーター・コスリック氏は、「シリアやアフガニスタンなどの国から戦争を逃れてやってくる難民でも、ドイツに暮らす小さな家族であっても、どの映画の中でも誰もが平和に暮らし、幸せでいたいと思っている」と、このテーマを説明しています。
映画というメディアを通じて難民問題についてもさまざまな意見が交わされ、オープンな議論が起こることを期待しているというコスリック氏の言葉通り、難民や移民を主人公やテーマにした映画が数多く招待されています。
初日の上映で話題を集めたのは、「Havarie(海難)」。豪華クルーズ船の乗客がすれ違ったボート難民を撮ってYou tubeに投稿した映像をスローモーションで流しながら、そのバックに難民の体験やこのルートをよく走るクルーズの船長やウクライナの貨物船、スペインの港湾都市カルタヘナの海難救助隊の無線連絡などの音声だけをかぶせた、映画と言うよりサウンドアートのような作品です。
Havarie(海難) © pong
ピンぼけのボートが真っ青な海にぽっかりと浮かんでいるだけの絵に、さまざまな人の日常と生と死の物語が交錯していきます。ゆっくりとカメラが動いていくと、そこには豪華クルーズ船と青い海と明るい日差しを楽しむ観光客たち。スクリーンの前の観客はその間でたゆたいながら、揺れ動く自分の立場や視点と、否応なく向き合わされるのです。
監督のフィリップ・シェフナーは、前作「リヴィジョン/検証」で2013年の「山形ドキュメンタリー映画祭」優秀賞を受賞しています。「リヴィジョン/検証」の続編ともなる、ドイツに移住してきたロマの家族を主人公とした「AND-EK GHES...」も好評でした。
若手監督によるドイツ映画を紹介する「ドイツ映画の視点(Perspektive Deutsches Kino)」部門は、ベルリンで暮らすパレスチナ人の若者、モハメッドを主人公にした「Meteorstrasse」でその幕を開きました。
Meteorstrasse © credo:film
2006年に難民としてドイツに来たモハメッド。両親は本国へと強制送還され、兄ラカダーとともにベルリンの空港近くのアパートで暮らしながら、バイク修理工房で職業訓練生として働いています。修理工房の手伝いでわずかな賃金をもらい、飛行機の音が昼夜続く廃墟のようなアパートに帰る日々。電話で「帰りたい」と泣きつくモハメッドを「帰ってきても居場所はない」と突き放す父。修理工場のオーナーはモハメッドに正規の仕事を与える気もなく、工房はうまくいかなくなるばかり。どこにも居場所を見つけられない彼が何度も期待や信頼を裏切られた末に、見つけた道とは.........
どの国のどんな若者でも、モハメッドと同じ18歳の頃は将来への期待と焦り、もどかしさを抱えているものだと思いますが、それに加えてドイツの社会にも「受け入れ」られず、パレスチナももう故郷ではない辛さ。ドイツに暮らすフランス人のアリエン・フィッシャー監督は身をもって知っているその喪失感、孤独を見事に描き出しました。
また、東日本大震災後の福島を舞台にしたドイツ映画「フクシマ・モナムール」では、桃井かおりさんが津波で弟子と家を失った芸者を演じ、喝采を浴びました。
日本を舞台にいままで3つの映画を撮り、25回も日本を訪れているという親日家のドリス・デリエ監督は、ドキュメンタリータッチに福島のいまをただ見せるのではなく、夢と現実の狭間のようなモノクロの映像で、愛するひとと居場所をなくす大きな喪失感、再生への力の芽生えを紡ぎ出しました。
映画祭のオープニング作品「ヘイル・シーザー」のプレミアのためにやってきたジョージ・クルーニーは、人権弁護士として活躍するレバノン出身の妻、アマルと共にアンゲラ・メルケル首相と会見、首相の難民への対応を高く評価。翌日には、シリア難民の家族を訪ねました。
映画の祭典といえども、いまや映画の話だけではいられないのです。さて、今年はいったいどんなテーマの映画が金熊賞の栄誉に輝くのでしょうか?
追記:「フクシマ・モナムール」はCICAE(国際アートシアター連盟)賞、ハイナー・カーロウ賞、パノラマ部門の観客賞2位を受賞しました!
注:一部、Young Germanyブログを転載しています。
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