Art & Design
2016.06.07 平澤 直子
(c) Bureo
昔々、ではなくほんの数年前、アメリカに、サーフィン好きな3人の若者がいました。彼らは波を求めて旅をしていましたが、行く海行く海、ゴミだらけなことにうんざりし、これはなんとかしなければ、と立ち上がりました。幸運なことに、若者のうち一人はプロダクト・デザイン、一人は財務コンサルティング、一人は企業の社会的責任が専門のコンサルティングと、それぞれ得意分野を持って仕事をしていたので、3人で協力すれば、このゴミだらけの海をなんとかできるのではないかと考えたのです。そして2012年、3人は会社を辞め、チリ政府がバックアップするスタートアッププログラムに乗ってBureoという会社を立ち上げました。チリで不要になった漁業用の網(漁網)を回収し、リサイクルしてスケートボードにし、アメリカで販売することにしたのです。
Bureoのfoundingメンバー (c) Bureo
国土が細長く、海に接する面積が多く漁業が盛んなチリでは、漁師は年間15から20ほどの網を使います。しかし、使用済みの漁網を回収するシステムは存在せず、海岸で燃やされたり船外に投棄されたりして魚やクジラ、イルカなどの海洋生物の命を脅かすことが常態化していました。こうした問題は世界中で見られ、毎年約64万トンもの漁業用具が海に棄てられており、その量は全海洋汚染の10%にものぼるといいます。Buenoはチリで"Net Positiva"というプログラムをはじめ、海岸にリサイクルボックスを設置して漁網を回収しています。また、1キロ回収するごとに地域のNPOに資金を提供し、漁業コミュニティのインフラ向上を支援することで、漁師のリサイクルに対するモチベーションを向上させています。
この活動の結果、Net Positivaは2015年の1年間だけで50トン以上の網を集め、9000以上の製品を生産しました。3つのコミュニティとの協力から始まった回収も今では15コミュニティになり、生産が増えることで現地の雇用創出にも役立っています。
一方で、Bureoの製品も開発が進みました。彼らの最初の製品である100%漁網リサイクルのプラスチック製スケートボードは話題を呼び、昨年は新たにチリのKarünという会社と協働でサングラスを開発しました。Karünもまた環境問題や人権に配慮した会社で、"Ocean"と名づけられたこのサングラスシリーズのフレームは、もちろん100%漁網をリサイクルしたプラスチックでできています。このサングラスプロジェクトの資金集めはKickstarterを介して行われたのですが、集まった金額は目標の3万ドル(約327万円)の6倍の18万ドル(約1960万円)強。人々の期待が伺えます。
Bureoのオンラインショップをのぞくと、前述のスケートボード、サングラスのほかにも、壊れたサーフボードや使用済みのウェットスーツを原料にハンドプレーンを作っている会社Enjoyとコラボレーションしたオリジナルハンドプレーン、売上金の一部がチリの海を守る活動に寄付されるオーガニックコットンTシャツ、リユースでできるトラベラーリッド(カップのフタ)を作るCuppowとのコラボレーションで作ったトラベルマグ、サステナビリティを大事にする、ステンレス製のウォーターボトルで有名なKlean Kanteen社と作ったウォーターボトルなど、地球環境を守るという共通意識を持って活動している会社とのコラボレーション品が並びます。
彼らの会社名Bureoは、チリの先住民マプチェ族の言葉で「波」という意味です。「海の表面の小さな風が波を起こすように、Bureoもこのプラスチックの海に小さな変化を起こすことから始めている。そこに時間とエネルギーを注ぎ込んで、本格的な変革を起こせるように」との願いを込めてつけられました。その言葉のとおり、彼らは小さな風となり波を起こし、他の風(会社)を巻き込んで、どんどん大きな波を起こしています。
そんな彼らが6月6日に発表した新製品"The AHI" は、有名スケートボードメーカーCarver skateboardsとコラボレーションした本格的なスケートボードです。ここにまた、新しい風と新しい波を起こすBureoの3人。この波が次はどんな波を引き起こすのか、今後も注目したいところです。
※Bureoのスケートボードは日本ではパタゴニアで入手可能です。
関連するURL/媒体
http://www.bureoskateboards.com/