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ピクトグラムから「アクトグラム」へ
アクションにつなげるために

2017.03.15 岩井 光子

ピクトグラム、その先へ―

出口から外へ逃げる「ランニング・マン」を表現したグリーンの「非常口」サイン。アジアやヨーロッパ各国、カナダなど、世界中ですっかりおなじみのこのマークは、日本人デザイナーが手がけたものです。言葉や国籍を越え、誰もが直感的に意味を違えることなく理解できるマークとして、30年前にISO(国際標準化機構)が世界規格に採用しました。

デザインしたのは、元多摩美大教授でグラフィックデザイナーの太田幸夫さん。非常口を始め、公衆トイレの男女マークや駅、空港など公共空間での必要情報をシンプルな絵で表した「ピクトグラム」が日本で大きく発展したのは、1964年の東京五輪がきっかけでした。当時のデザインチームを率いた勝見勝さんを中心に、太田さんや気鋭の若手デザイナーが集まり、世界各地の選手が一目で見てわかるようにと、施設案内や競技種目のシンボルマークをピクトグラムで整えたのです。

その後、災害の多い日本では、太田さんが中心となり、非常口から派生した防災ピクトグラムが多く作られました。例えば、津波避難のための高台や津波避難ビルとランニング・マンを組み合わせた「津波避難場所」や「津波避難ビル」のサインです。


(左上から時計回りに)広域避難場所、津波避難場所、避難場所(建物)、津波避難ビルのピクトグラム

しかし、これらの標識がありながらも、多くの犠牲者を出してしまった2011年の東日本大震災では、単独標識の限界と新たな課題も見えてきました。「どの方向へ」「どの場所を目指して」「どのくらいの距離を逃げればいいのか」などもあわせて、わかりやすく示すことが欠かせない、ということです。

2014年9月、経産省は避難場所だけを表示するのではなく、具体的な避難方向を示す矢印や道のり、距離、避難場所の名称、海抜など、一刻を争う避難を的確に誘導できるよう、一連の情報もあわせて表示する津波避難誘導標識システムのJIS(日本工業規格)を定めました。さらに2016年3月には、津波以外の災害、例えば、土石流や洪水、地滑り、大火事などでも同じように一連の情報を表示するようルールを広げています。

東日本大震災以降に高まった、こうした避難誘導の考え方に情報デザインの観点から新たなアイデアをプラスしているのが、「BoSign(ボーサイン)」(理事長・小山英夫)というグループです。太田幸夫さんと都内のデザイナー、コピーライター、防災の専門家らの出会いを機に、改めて今の時代に則した"防災+サイン"についての構想を深めようと2014年、一般社団法人として立ち上がりました。

BoSignのネーミングは、防災士の資格を持つコピーライターの蓑田さんによるもの

ボーサインがこれまでに出してきたアイデアのなかでも特にユニークなのが、「ピクトグラムを動かせないか?」、というもの。ぴたっと静止画のように止まったランニング・マンを動かすことで、「命を守るための必要情報が視覚化され、より伝わりやすくなるのでは?」、そう考えたのです。例えば、大きな地震が発生する際には、まず危険な物から離れます。そして、頭を守り、しゃがみます。こうした一連の動作を、ランニング・マンを動かして表示するのです。表示画面は、まちなかのデジタルサイネージを想定しています。地震発生直前から発生中に、緊急画面に切り替わるように設定しておきます。

ボーサインでは、この動くピクトグラムを「アクトグラム」と名付けました。アクトには二つの意味が込められています。ひとつは「動く」ピクトグラムという意味。もうひとつは、被災した人たちに適切な「アクションを起こしてほしい」という意味です。


アクトグラムの実証実験

ボーサインでは、アクトグラムの開発を進めるため、そして、防災標識でより多くの命を救うために、AED(自動体外式除細動器)の誘導サインも製作したいとクラウドファンディングを行い、2月中に目標額を達成しました。

防災士と気象予報士の資格を持つコピーライターの蓑田雅之さんによれば、目下「災害の主因子を分析する整理作業の真っ最中」だと言います。発生中の災害の原因は台風なのか、大雨なのか、地震なのか―。洪水ひとつとっても、台風が原因のこともあれば、ゲリラ豪雨が原因のこともあります。火災も事故で起きるケースもあれば、地震の揺れから発生する場合もあります。こうした膨大な災害の要因を一つひとつ丁寧に体系づけていく作業がまず、アクトグラムを作成するに当たって、その骨組みとしてとても重要になってくるからです。

ミーティングで話し合いを進めるメンバー

実用化はまだ先になりそうですが、いずれまとまれば、アクトグラムは避難誘導標識システムの新たな選択肢として注目を集めそうです。ピクトグラムの原型とも言われるアイソタイプを考案したオーストリアのオットー・ノイラートは「言葉は(人を)分かつ、絵は結びつける(Words divide, and pictures unite)」という言葉を残しています。ボーサインのメンバーが見据えるのは、2020年の東京五輪。アクトグラムが1964年の東京五輪で発展したピクトグラムのレガシーとして、世界中のデジタルサイネージに避難誘導サインとして現れる日を目指し、作業は進められています。



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