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被災地に「行けなかった」人へ―映画「大津波の後に」「槌音」

2012.03.11 瀬戸 義章

現在の仙台市深沼海岸。「大津波のあとに」では震災直後の映像が流れる
photo by yoshiaki seto

お風呂に入れたネコを乾かそうとしたら逃げられてしまい、「ああ、ドア閉めとかなきゃ!」とあわてて追いかける。そんな、なんてことのない日常のあとに、昨年3月11日から2週間が過ぎた同じ場所が映しだされます。

映画「槌音(つちおと)」は、岩手県大槌町出身の大久保愉伊監督の作品です。震災後の故郷をスマートフォンで撮影した映像と、上京するときに持ち出して被災を逃れた古いビデオの映像が交互に現れます。

例大祭で御輿をかついでいた消防団のあの人は、半鐘を鳴らし続けて亡くなりました。みんなでバーベキューをしたあの場所も、見送りをした駅のホームもなくなりました。

私は、恥ずかしいことに「被災地」としての大槌町しか知りませんでした。「槌音」は、震災によって、どれほどの「日常」が失われてしまったのかを、手ざわりのある映像で教えてくれます。

一方、映画「大津波のあとに」は、震災から2週間が過ぎた宮城県の仙台市・東松島市・石巻市の姿を、森本修一監督がひとりで撮り集めた作品です。その頃、そこは「捜索」の時期でした。

「母を探しています」と書かれた張り紙がありました。「3年生と5年生だったんだよぉ。デズニーランドに行ったとき撮ったの」と、はしゃいで笑う子どもたちの写真を手渡されました。「今日は、10人くらいあがったかな」と、夜中、交通整理員は言いました。

この映画は、「被災地」とはなんであったかを、思いださせてくれます。東日本大震災によって亡くなった方は1万5854人、いまだ見つからない方は3203人(3月8日現在)です。

2つの映画は、ほんの1年前の、日本のある地域を映し出したものです。しかし、これはかつて起きたできごとなのでしょうか? 私には、これから起きることのように思えてなりませんでした。それが、明日なのか、100年後なのかはわかりませんが。

映画監督の松井良彦氏がこの作品に寄せた言葉を借ります。「この映画が好きとか嫌いとかではなく、一度は観るべき映画です」。3月16日まで渋谷で行われているこの2作品の上映会ではチケット売り上げの一部が公益社団法人・シャンティ国際ボランティア会の被災地支援の寄付になります。都内だけでなく、日本各地、フランスやアイルランドでも上映が予定されています。詳しくは公式サイトをご覧ください。



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