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海の酸性化はどれくらい進んでいるのか

2013.09.15 山田 由美

海洋酸性化の影響が心配されるサンゴ:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters

今、海は私たちが排出した二酸化炭素(以下CO2)の約25%を吸収し、酸性化する道をたどっています。それによって海水の化学成分が変化し、生態系に影響を与えていくという流れは「海洋酸性化」と呼ばれています。

大気中に放出されたCO2濃度が産業革命以降高まってきているのは、多くの人が知るところとなりましたが、海洋酸性化は未だにあまり知られていません。実は同じように海のCO2濃度も高まってきていたという事実に研究者たちが目を向け始めたのはやっと海洋の調査データが集まり始めた1990年代でした。もともと海は弱アルカリ性ですが、産業革命以降CO2が海水に溶け込んで酸性化が進み(アルカリ性が弱まり)、今では既にpH(水素イオン濃度指数)は0.1程度低下していると推定されています(IPCC、2007)。

気象庁の1984年から2013年までの30年間の観測結果でもpH値が低下している傾向が示されています(東経137度・北緯10、20、30度の3点での長期観測)。

わずかな値ではありますが、海洋生物は長い年月の間、酸とアルカリの微妙なバランスのpH値の中で進化をとげ、その環境に適応した生理をもっていることから、バランスが崩れると生死にかかわるのです。

しかし海洋酸性化のメカニズムや世界的な傾向は未だによく解明されていません。継続的に記録をとっていかないと、海洋中の炭素循環の中でどれだけ変動や傾向があるか分からないのです。アメリカ海洋大気局(NOAA)の傘下の太平洋海洋環境研究所(PMEL)は2007年から海洋酸性化の研究を続けてきましたが、2013年8月、アイスランドの海洋調査研究所と共同で、北緯68度の大西洋中にモニタリング用のブイを設置しました。北極圏内に設置されたのは世界でも初めてのこと。CO2は気温が低いとより溶け込みやすくなるので事態の重大化や世界各地への拡散状況が懸念されており、北の海の状況を理解することには重要な意味があるのです。

ブイの測定機は90秒おきに海水表面と大気のpH、温度、塩分濃度、酸素センサーの値を自動送信してきます。データは数値ほか、地図でみることができます。

今までにも測定器を搭載した船が航行中にデータを集積したり、ボランティアがデータを観測したりする例はありましたが、ブイのいいところは嵐でも高波でもモニタリングし続けられること。費用も安く済みます。

IPCCの二酸化炭素排出量シナリオではさらに排出量が増える場合も想定されているため、濃度増加はさらに大きくなることも考えられます。海洋は人間が手を加えて状況を修正できるようなものではありません。この危機的事態が多国間のネットワークによる解析でより知られるものとなればと思います。



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