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Biodiversity

福島から鳥が消えている
放射線の影響を示す調査結果

2015.04.29 山田 由美

ムソー教授 Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by ippnw Deutschland

米サウスカロライナ大学のティモシー・ムソー教授らが福島の調査区で57種類の鳥を観測した結果、2011年の原発事故以降ほとんどの鳥の数が劇的に減少していることがわかり、その研究結果が3月17日、鳥類学会誌オンライン版に発表されました。中でもツバメの減り方は著しく、観測できた数は事故前の数百から数十に落ち込んでいます。福島の放射線量は下がってきていますが、それに反して鳥の個体は減る傾向にあるのです。

ムソー教授らは、熱ルミネセンス検出器で検知器内の結晶に熱を加えたときに出る光を利用してガンマ線などの放射線被爆を測定しており、事故以来蓄積してきた観測データから減少理由を探っています。「原発事故直後の夏に調査した時は放射線量と鳥の個体数の相関関係はわかりませんでしたが、その後は年々強い関連がみられるようになってきました」とムソー教授。次第に数の減少のみならず種の数も減っていることがわかり、調査エリアの生態系に重大な影響を与えていることが明らかになってきました。

ムソー教授は1986年のチェルノブイリ事故が生態系に与えた影響を調べており、科学者たちが共同で継続的な観測を目指す「チェルノブイリ+フクシマ・リサーチ・イニシアチブ(CFRI)」のディレクターを務めています。ムソー教授は、共同研究を行うフランスのアンダース・モラー氏と共著でチェルノブイリと福島で鳥に出た影響の違いについて、2015年2月に同じ鳥類学会誌に発表された論文でも触れています。

こちらの研究結果によれば、チェルノブイリでは渡り鳥に影響が出ているのに対し、福島では逆に移動をしない留鳥に影響が出たのです。これは、福島の鳥への影響がまだ短期的な段階であることを示しています。渡りをしない鳥は直接の被曝量が多く、その影響が出ていますが、チェルノブイリでは既に幾つか世代が交代し、渡り鳥の方が変異を蓄積して大きな影響を抱えているのです。

渡り鳥がより影響を受けてしまうのは、渡りをすることによる体の中の仕組みに関係があります。実は渡り鳥が長い時間飛んでいられるのは、疲れの原因と考えられる活性酸素を取り除く「抗酸化物質」を自分で作り出すことができるから。そしてその「抗酸化物質」は放射線などによるDNA損傷を防ぐことができるのです。渡りを終えたばかりの鳥は、自らの身を守るための大切な抗酸化物質を消耗しているため、被爆で異常を起こした細胞の除去を行う力が弱くなっていると考えられています。南の国から渡ってきたばかりのツバメが被爆により数を減らした原因もそこにあると見られています。

Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Marie Hale

チェルノブイリの状況から福島の今後を正確に予測することはできません。さらに被爆と生態系の変化の関連性はわかっていないことがたくさんあります。しかし集められたデータから導き出された事実は決して無視できるものではありません。我々人間が起こした惨事は動物たちにどんな影響を与えてしまったのか。声を上げられない動物たちの悲劇を解明するために今後も目を背けずに洞察を深める必要があると思います。



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山田 由美