Biodiversity
2010.09.22 アマサワエンジィ
2001年に起きた米同時多発テロの犠牲者を追悼するために、2003年から毎年9月11日の夜に放たれている「追悼の灯(Tribute in Light)」。天まで届きそうな力強い光の中で、キラキラと光るものが無数に飛び交い、幻想的な光景が現れました。しかしこのキラキラ光る物体、実はたくさんの渡り鳥たちが旅の途中で光に捕らわれ、混乱している状態だったのです。
「渡り鳥は星や月の位置などを頼りに移動するが、今年の9月11日に月は出なかった。そのため星の光を頼りに移動していたところ、強い追悼の灯のスポットライトが現れ、鳥たちは混乱してしまったのだ」と、野鳥保護などを行う自然保護団体、オーデュボン・ソサエティーニューヨーク支部の市民科学(※)マネージャー、ジョン・ローデンさんは説明しています。
今年は9.11の前週まで渡りに適さない向かい風が吹いていたため、順風を待っていた渡り鳥たちが、9.11当日は一斉に夜空を飛んでおり、合計で例年を上回る約1万羽の渡り鳥が光に捕まってしまったのではないかと推計されました。「ここで足止めを食らってしまったために、鳥たちが目的地にたどり着くまでの体力を失ってしまうことが心配される」と、ローデンさんは話しています。
スポットライトに捕われた鳥たちを助け出そうと、ローデンさんらは「追悼の灯」の主催者と協力し、光の中の鳥の数が増えるたびにライトを20分ほど消灯しました。オーデュボン・ソサエティーでは、渡り鳥たちが混乱せずにニューヨーク市を横断できるよう、夜の消灯をオフィス街に呼びかける「Light Out New York」という運動も行っています。人間が放つ光と野鳥との調和は今後とも課題となりそうです。
※市民科学 狭いアカデミズムの枠を超え、市民主体の調査研究や政策課題に専門知識を生かす科学のこと
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