NTT DATAThink Daily

  • 地球リポート
  • 地球ニュース
  • 緊急支援
  • 告知板
  • Think Dailyとは

地球ニュース

RSSrss

Climate Change

温暖化対策を止めるな!
「科学のための行進」と「不都合な真実」続編がトランプ米大統領に異議  

2017.06.01 ささ とも

多様な人種、年齢層の人々が参加した「科学のための行進」
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Moms Clean Air Force

地球温暖化の問題を世界中に突き付けたドキュメンタリー映画「不都合な真実」の続編「An Inconvenient Sequel: Truth To Power(不都合な真実2:放置された地球)」 が5月17日から開催されたカンヌ国際映画祭で特別上映されました。アル・ゴア元米副大統領が主演し、温暖化の影響により規模が拡大する気候災害や、対策の要となる再生可能エネルギー促進の現状について、予告編で見る限り前作と同様に力強く語る姿は、地球温暖化のコミュニケーターとしての意気込みを感じます。



しかし、ゴア元大統領のおひざ元の米国では、温暖化を全面的に否定する勢力が不都合な真実をもみ消そうと躍起になっているようです。その最前線に立つのがトランプ大統領。大統領選挙運動の最中から「気候変動はでっち上げ」といった科学を軽視する発言からその動向が注目されていました。そして、大統領に就任早々、オバマ前政権が進めてきた温暖化対策を見直す大統領令に署名し、米環境保護局(EPA)の予算を大幅に削減し(前年度比31%減)、国内政策だけでなく、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」の離脱をもほのめかしています(政権内でも「離脱」か「残留」かで分かれていたが、「離脱」する方針で決定した)。米国は世界第2位の温室効果ガス排出大国ということを考えれば、この国が環境規制を撤廃し、石油メジャーズ(エクソン・モービルなど)が制限なく化石燃料を燃やし続ければ、ほかの国がどれだけ対策を講じても、パリ協定で目標に掲げたように気温上昇を2度未満に抑える効果は限定されることになります。

こうした科学軽視の米政策を深刻に受け止めた科学者たちが中心となり、アースデイ(地球の日)の4月22日、ワシントンをはじめ、ロンドンやパリ、日本では東京やつくば市など世界主要都市600カ所以上で抗議デモ「科学のための行進」を行いました。「科学はリベラル派の陰謀ではない」「無知は至福ではなく、受け入れられないものだ」「科学にはもうひとつの事実はない」(トランプ政権の上級顧問が報道官の誤った発言について「もうひとつの事実(alternative facts)」を述べただけとコメントし、事実を捻じ曲げていると話題になった言葉を受けたもの)科学者だけでなく、子どもから高齢者まで一般市民がそれぞれの思いを綴ったプラカードを掲げて、政策に科学的知見を取り入れる大切さを訴えました。


March for Science:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Tom Hilton


車いすで参加する男性
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Ian Pattinson


実は、米国には宗教が理由で、科学を信じない人たちが4割近くいるそうです。筆者が以前、地球ニュースで紹介した米小説『Flight Behaviour(飛翔行動)』に登場する家族やコミュニティもそうでした。身の回りのあらゆる現象(例えば、異常な大雨)を神の仕業だと信じているのです。日本では考えられませんが、公立学校で「進化論」だけでなく「創造論」(神が地球上のすべてのものを創造したという考え)を教えるよう求める運動もあります。トランプ大統領の科学軽視政策は、こうした保守派の人たちの考えに後押しされているとも言えます。

米国は2005年にハリケーン・カトリーナの直撃によって大きな被害を受け、次の年に「不都合な真実」がアカデミー賞受賞で注目を集め、多くの人が温暖化に関心を寄せて危惧するようになりました。それでも及び腰だった共和党のジョージ・W・ブッシュ政権から、民主党のオバマ政権に交代すると、環境規制や再生可能エネルギーの導入など温暖化対策が急速に進展し、ようやく2015年12月にパリ協定で各国との連携を約束するに至りました。

パリ協定が採択。オバマ元大統領が積極的に働きかけたこともあって合意にこぎつけた
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by WeMeanBusiness


オバマ前政権はパリ協定で、2025年に2005年比26~28%の二酸化炭素(CO2)排出量削減目標を打ち出しています。目標達成に向けた主な政策が、火力発電所からのCO2排出量を規制する「クリーン電力計画」と大型車両の燃費基準や建物の省エネルギーなどを推進する「気候行動計画」です。科学者グループの非政府組織「クライメート・アクション・トラッカー」によると、「クリーン電力計画」によって2005年比10%減が達成される予想でしたが、トランプ政権はこの規制をすでに撤廃しているため、2005年比7%減にとどまるとしています。

地球温暖化は、汚染地域が限定されるようなほかの環境問題と違い、米国のような大国ならたった一国であってもその動向によって世界全体に大きく影響します。米国に追随してほかの排出国がパリ協定を離脱したり、削減目標の達成を放棄したりすることになれば、さらに深刻な事態となるでしょう。この10年間にどれほど温暖化が進んだかは「不都合な真実」続編が伝えてくれるはずです。科学を信じない世界の未来がどんなものか想像できるでしょうか。



関連するURL/媒体

Bookmark and Share

Thinkテーマ別に読む

Climate Change, Science

このニュースの地域

アメリカ (南北アメリカ

ささ とも