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今月のレコメンド:
「時間をめぐる、めぐる時間の展覧会」

2016.03.11 岩井 光子

夏の風に揺れる雑草。名もなき草も、めぐる季節のなかで次世代に命をつないでいく。撮影:佐々木光(セセン設計所)

「ひま、やることがない。なんて間抜けなセリフだこと。春は花を見て、夏は太陽を浴びて、秋は落ち葉を踏んで、冬は静かに春を待つの。やることがないんじゃないわ。やることをわかってないのよ」。ムーミン谷のリトル・ミィはこう言い放ちます。時間が空くと、ついついスマホに目を落とす習慣がしみついてしまった自分には、ちょっと耳の痛い指摘です。

世田谷文化生活情報センター「生活工房」で3月21日まで開かれている時間をテーマにした企画展「時間をめぐる、めぐる時間の展覧会」の「暇の部屋」には、丸っこい石や木の実をたくさん集めて遊ぶネパールのおはじき「グッチャー」や、ロンドンのお手玉が紹介されています。木の棒や石ころ、草花など、その辺にあるもので空き時間を楽しむ能力を「暇のちから」と呼ぶとしたら、スマホを手放せない私たちにはそのちからがどのくらい残っているのでしょう。学校(school)や学者(scholar)も、元をたどればギリシャ語の暇(skhole)が語源だそうです。暇つぶしこそが人間の思考力を磨いてきた「大いなる時間」なのかもしれず、時間の効率化で失っていくものは、実は大きいのかもしれません。


「暇の部屋」。机の上に置かれているのがネパールのおはじき「グッチャー」 写真提供:生活工房

今展は生活工房が3年の歳月をかけて企画した特別展。朝注文した宅配便を送料無料で夕方には受け取れる、沖縄までの日帰り出張も可能など、身体感覚を大きく上回るスピードをサービスとして受け取ることに慣れてしまった私たちにとって、そもそも身の丈に合った時間感覚とはどういうものなのか、そんなことを改めて考えさせてくれるユニークな視点の展覧会です。

世界のさまざまな土地の1日を写した映像を流す展示室では、浮き島や砂漠、山頂で暮らし、働く人々が登場します。こうした映像を見ると、時間は均質化しているどころか、1日の時間の長さは土地によって違うような気もしてきます。また、時間が作り出したモノを集めた「時の採集箱」の展示室では、木の年輪や腐葉土、岩塩などが置かれています。鉱物の形成もそうですが、地殻変動や天体の運行などなど100年、1000年、1万年という大きな自然のリズムに対して、私たちは小さなリズムの生命体として呼応できているのか―。そんな思いも胸をよぎります。

「時」そのものは目に見えないけれども、その経過は大地に、木々に、さまざまな形を作り出す。「時の採集箱」より 写真提供:生活工房

時の流れはあっという間とはよく言われますが、流れていくばかりではなく、本来夢のようにゆらいだり、円を描くように何度もめぐってきたりするものなのかもしれません。展示室には冒頭のリトル・ミィを始め、時に関するさまざまな本からの引用も掲示されています。私たちが何百年も前に記された言葉に心から共感するときなども、時は一方向に流れるばかりでなく、ひとところに留まっているように感じたりもします。時はそもそも多様で有機的なもの―。それはコツンと頭をたたくような小さな気づきかもしれませんが、気ぜわしい毎日に立ち向かう勇気を得たような、不思議な解放感に包まれるのです。

12日には海が凍る日を待ち続けるホッキョクグマなど北極の動物たちの生態を記録した『氷の大融解』などの上映会「めぐる季節、約束の物語」が、19日には世界各地に伝わる世界のはじまりの物語を楽しむお話会「世界のはじまり、時のはじまり」が開催されます。いずれも参加無料だそうなので、展覧会と合わせて出かけてみてはいかがでしょうか。



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