the Earth
2017.04.21 宮原 桃子
美しい地球をイメージしてつくられた、広島県廿日市(はつかいち)市の名産品のけん玉
被爆地として世界に平和を訴える象徴の町・広島市には、年間約1200万人もの観光客が訪れ、外国人観光客も100万人を超えます。昨年末、そんな広島から新しいカタチで平和を発信していきたいと、「EARTH Hiroshima(アースヒロシマ)」というブランドが生まれました。広島のクリエイターによるデザインと高い技術力を誇る地場の製造業とのコラボレーションによって、平和への願いを込めたさまざまな商品をつくり、観光客に販売するプロジェクトです。
仕掛け人は、広島市で起業支援事業を行う会社「ソアラサービス」。創業者の牛来(ごらい)千鶴さんは、約20年前に自らの起業にあたり直面した苦労や課題を踏まえて、起業支援サービスを始め、現在約70社が利用するシェアオフィスや起業セミナーなどを行っています。また、地場産業を応援するため、製造業とクリエイターのコラボによるモノづくりプロジェクトを展開しています。
創業者の牛来千鶴さん。EARTH Hiroshimaの折り鶴ピアスを身に着けて
このモノづくりプロジェクトに取り組むなかで、自社製品開発に苦労する製造業に新たな利益をもたらし、消費者には心に残る商品を届け、広島そして世界に良い変化をもたらすことができる「三方良し」を求めて生まれたのが、「EARTH Hiroshima」です。牛来さんは山口県出身の被爆2世で、30代の頃に大病を患ったことをきっかけに、いつか地球のために役立つことをしたいという想いを温めてきました。広島から地球のために発信できることを考えた時、核にまつわる平和だけでなく、貧困や人種差別などさまざまな課題を広く内包するような平和について、多くの人が考えたり感じたりするきっかけをつくりたいと考えたそうです。そのモチーフとして「アース(地球)」をブランドの冠にしたのは、まず「世界はみんなつながっている、ひとつながりの地球」という意識が大切との想いから。これまでに、地球や折り鶴をモチーフにしたアクセサリーやビーズ入りポストカード、クラフトカード、けん玉、化粧筆などの商品が生まれました。
地球や平和をテーマにしたポップなデザインの商品
ビーズ入りのポストカードは、高品質なグラスビーズで世界的にも定評のあるトーホーとのコラボによって生まれた
過去を振り返るだけでなく、未来に向けて明るく前向きな気持ちになれるようにと、ポップでかわいいデザイン。生産を担うのは、高い技術力を誇るビーズやけん玉、筆のメーカー、自動車部品で培った形成・塗装技術を持つメーカーなどさまざまです。商品は、平和記念公園内のレストハウスやおりづるタワーなどの市内名所のほか、東京都内の広島県アンテナショップでも販売され、現在生産が追いつかないほどの状況だそうです。売り上げの一部は、原爆ドームの保存のためなどに寄付されます。今後は年内に新たに10商品を発売する予定で、5年で広島の製造業300社が参加する規模を目指しています。
今日本は、被爆国でありながら核兵器禁止条約に反対の立場を示すなど、政治の世界では平和に向けた明確な発信やアクションを行うことができていません。しかし日本だからこそ、広島だからこそ、未来に向けてできることはたくさんあるはずです。企業やクリエイターが集うEARTH Hiroshimaの平和への取り組みは、政治とは違う次元で、もっと柔軟にもっと自由に、平和に向けて何ができるのか、私たち一人ひとりに問いを投げかけてくれているのではないでしょうか。
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