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Energy

フクシマのドキュメンタリー、脱原発めざすドイツで賞賛

2015.03.10 河内 秀子

「フタバから遠く離れて 第二部」より ©2014 Documentary Japan, Big River Films

東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から丸4年となる今年。3月9日にドイツ首相のアンゲラ・メルケルが、7年ぶりに日本を訪問しました。今回の訪日は30時間ほどと短く、東日本大震災や原発事故で被害を受けた地区への訪問は予定されていませんが、日本へ旅立つ直前、ベルリン工科大学の井上茂義教授のインタビューを受けたメルケル首相は、「福島の事故があったことで、ドイツは計画よりも早く脱原発を決めた。現在ドイツは再生可能エネルギーに重点を置いている。日本も同じ道を行くべきだ」と発言しています。ドイツと日本では、もちろん条件は同じではないとしながらも、「私は福島(の原発事故)から『安全が最優先事項なのだ』ということを学んだ。ドイツの首相として、できる限り早く原子力エネルギーから脱するために全力を尽くさなければと思っている」とメルケル首相は締めくくりました。

先週からドイツの数々のメディアも、原発事故からの4年間を現在のドイツの脱原発の状況も絡めながら、リポートしています。

先月5日から15日まで開催された第65回ベルリン国際映画祭でも、3.11以降、故郷を離れ避難生活を余儀なくされている福島県双葉町の人々を追ったドキュメンタリー映画「フタバから遠く離れて 第二部」(舩橋淳監督)が上映され、大きな反響を呼びました。2012年のベルリン映画祭で上映された「フタバから遠く離れて」の続編です。初回の上映では、平日の午後4時という上映時間にもかかわらず800席近い会場が8割方埋まりました。週末の上映は満席だったそうで、原発や環境問題に対してのドイツ人の意識の高さが感じられます。


会場のDelphi Filmpalast。創業1928年、1950年代から映画祭の会場として使われている歴史ある映画館

映画は、海の風景から始まります。静かな浜辺。カメラがゆっくりと動くと、遠くにぼんやりと福島第一原発の建物がかすんで見えてきました。カメラは、ふるさとの双葉町から、200キロ近く離れた埼玉県の廃校へと避難した人たちの日常、仮設住宅での暮らしを、静かに丁寧に追っていきます。プラスチック容器に入ったお弁当と、コンビニおにぎりの毎日。仮設住宅の小さなキッチンで「食事作るのも大変で...」とふっと悲しそうにほほ笑む住民たち。体育館の一角でカセットコンロに鍋をかけての自炊の試み。そして避難地区にある自宅へ一時帰宅して、真白のスーツに身を包み、マスクをしての掃除。仮設住宅では小さなユニットバスとトイレが隣り合っていて、音も筒抜け。「トイレで、すみません、って隣に謝ったりして」と、笑い合う市民。「健康で文化的な最低限度の生活が保障されているはずではなかったのかなあ」と......。その笑いから、逆に何気ない「ふつうの生活」が壊され、体力と気力を奪われてしまっていることがひしひしと伝わってきます。

「フタバから遠く離れて 第二部」より ©2014 Documentary Japan, Big River Films

住民の立場に立ち、闘い続けてきた双葉町の前町長、井戸川克隆さんも第一部に続いて再び登場します。井戸川さんは、2013年の2月に辞職。避難先で町長選挙が行われ、伊澤史朗さんが新町長として選ばれます。井戸川さんは汚染土などを保管する中間貯蔵施設の説明会に行き、声を上げます。「建設を受け入れたわけでもないのに、なぜいつのまにか『建設説明会』になっているのか? そして、なぜここに東京電力がいないのか!」と。

除染によって出た汚染土が詰められた袋が、ただただひたすら積み重なっていく映像に、会場に集まった観客たちが、息をのみ、ため息をつくのが聞こえました。

上映が終わっても、観客の大半が圧倒され、やるせない思いに胸を詰まらせているようでした。大きな拍手に迎えられた舩橋監督は、壇上にあがると現状を熱く語りました。「映画は人の痛みを伝えるための良いツールだと思っている」と監督。「ぼくらはみな福島原発事故の当事者なのに、当事者意識が薄い」と。「なぜ、この状況が変わらないのでしょうか?」という質問には「僕が聞きたいですよ!」と舩橋監督。そして原発輸出に積極的な安倍政権に触れ「なぜ、この悲劇を他国に売るのか?」と言うと、観客から大きな拍手が起こりました。「フランスなど原発推進国で、ぜひ上映すべきだ!」という声も上がりました。

ベルリン映画祭、ワールドプレミア上映後の質疑応答に答える舩橋監督

ベルリン映画祭でのこの映画の公開の数日前、双葉町では、中間貯蔵施設の工事が始まりました。最終的な処分のメドが立たないままの「一時的な」保管。

ベルリンの新聞Tagesspiegel紙はこの映画の評を「花盛りだったフタバ、50年間福島の原子力発電所によって儲けたこの街は、廃棄物処理場となるのだ」とまとめています。この締めの言葉には「この現実を見ても『原子力 明るい未来の エネルギー』だと思うの?」という問いかけが続くのでしょう。膨大な問題が山積みの、先の見えない戦い。それは日本だけの問題ではなく、2022年の完全脱原発を決めたもののまだ各地で原発が稼働しているドイツにもつながる問題でもあると、この映画を見た人たちは思っているでしょう。



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ベルリン、ドイツ (ヨーロッパ/ロシア

河内 秀子