Energy
2011.04.26 河内 秀子
ウルズラ・スラーデックさん (c) EWS Schoenau
4月11日、緑のノーベル賞ともいわれる「ゴールドマン環境賞」(米ゴールドマン環境財団)がドイツの人口2000人の小さな街に授与され、話題を呼んでいます。
南ドイツ、黒い森にあるシェーナウ。深い緑に囲まれたこの街に、1986年のチェルノブイリ原発事故後、放射能を帯びた雲が到達しました。市民、特に子どもを持つ親たちは不安を抱いたと言います。「外で子どもを遊ばせてもいいの? 母乳は? それとも事故前に製造された牛乳の方が安全?」、10人の親が「原子力のない未来を求める親の会」を結成しました。中心メンバーのウルズラ・スラーデックさんは5人の子どもを持つ母。「以前は政治にもエコにも興味はなかったけど、自分の子どもの未来を考えたら......」と言います。
活動が始まった90年代初め、シェーナウでは、街にそれまで電力を供給していたラインフェルデン送電所とさらに20年間、電力供給の独占を延長する契約の更改が迫っていました。当初、ラインフェルデン送電所の基本料金設定は電力を多く使用した方が得という仕組みだったため、市民は省エネをした方が得となるよう余剰電力の買い取りや比例料金体制の導入を訴えたのですが、送電所はそうした取り組みに冷淡な対応を取り、原子力使用の廃止にも興味を示しませんでした。
そこでスラーデックさんら市民たちが考えた対抗策は、市民がお金を出して独占契約を買い取り、自らの手で市民所有の水力、太陽光、天然ガス、再生可能エネルギーによるエコ電力会社を作ることでした。
ドイツの歴史上初めて実現されたこのプラン。1997年に創立されたシェーナウ電力(EWS - Elektrizitaetswerke Schoenau)は、社員70人ほどという小さな会社ながら、いまでは全ドイツ、10万を超す顧客に原子力と石炭フリーのエコ電力を供給する会社に成長し、新たな電力供給プランとして注目を浴びています。福島第一原発の事故の後、通常の10倍以上の問い合わせが殺到したそうです。
「私たちは、のんきで、あまり後先考えずに行動してしまったから、逆に実現できてしまったのかもしれないわ」とほほ笑む、華奢なスラーデックさんの姿からは、私たちの小さな力でも、きっと何かを変えることができるはずという勇気をもらえる気がしました。
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