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「須坂のレーチェル・カーソン」と呼ばれた女性の復刻本が話題に

2011.09.06 岩井 光子

Cogéma La Hague:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by duvalmickael50

福島第一原子力発電所の事故により、私たちは人間の手で制御できない人工放射性物質の怖さを身近な問題として受け止めていますが、それよりもずっと前、1977年から地震国・日本で大きな原発事故が起こり得る可能性を繰り返し説き、さらには現場で働く作業員の被曝問題などタブーとされた事実についても臆せず発言し続けた女性がいます。彼女はベトナム戦争で散布された枯れ葉剤の被害を追ったドキュメンタリー映画を製作している坂田雅子監督のお母さん、坂田静子さんです。

長野県須坂(すざか)市で薬局を営んでいた静子さんは、手書きのニュースレター「聞いてください」を77年5月から不定期にガリ版刷りでコツコツと製作、駅などで配布を始めます。当時建設工事が進んでいた新潟・柏崎原発の反対運動に参加するなど日本の原発政策に厳しい批判を投げかける一方、米スリーマイル島や旧ソ連チェルノブイリの事故を決してひとごとではない、「もし大地震などで(福島や浜岡原発の)パイプが傷み、冷却水が無くなれば、それ以上の事故が起こる可能性がある」と鋭く指摘。そして98年、がんで亡くなる直前まで書きためた紙面を一冊の本にまとめることが悲願でした。

静子さんが亡くなった翌年の99年に雅子さん始め、子どもたちが遺志を継ぎ、『聞いてください』を自費出版。そして今年3月、警告が現実になったとも言える福島の事故直後、その訴えがあまりに的を得ていたことに驚いた地元放送局のディレクターの発案で6月、長野市の出版社オフィスエムから復刻版が急きょ発行されました。歌手の加藤登紀子さんらが賛同して帯を書いた本は共感を呼び、7月中旬には早くも第2刷が出ています。

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静子さんが反原発運動に深くかかわることになったきっかけは、結婚して英仏海峡のガンジー島に住んでいた長女の存在。彼女の第二子が重度の障害を持っていることがわかり、生後数週間で亡くなったことにひどくショックを受けた静子さんは、そのことが島から50キロほどの仏コタンタン島にある再処理工場から流れ出た放射能と関連があるかもしれないと思い至り、がく然となります。日本も含めた諸外国の使用済み核燃料廃棄物を請け負っていた再処理工場ラ・アーグの周囲では、拡張工事の際に大きな反対運動も起こりました。日本の原発が遠い島の住民に与えた影響を、静子さんは長女の手紙で初めて知るのです。

「偉い人たちが、どのように考えて(原発を)推進するのかわかりません。私たちにわかることは、子どもたちの生命を脅かすものは否(ノー)というただ一つのこと」。静子さんの揺るがぬ主張を貫いたのは、子を思う母としての強さ。日々享受している豊かな生活が、原発を動かす大きな力とどこかでつながっていると直感した静子さんは、一生活者の目線で原発についての疑問や不安を正直に口にしています。

「原子力利用のプラス面、マイナス面を新聞・テレビなどで公平に知ることができ、自分で考え、選択する材料が用意されることこそが私たちに必要な情報公開。推進一辺倒のPRはおかしい」

こうした主張が当時どれほどの勇気を持って語られていたか想像するとき、フクシマ以降を生きる私たちは静子さんの30年前の言葉を非常に重く受け止めなければなりません。



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