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2011.09.12 アマサワエンジィ
世界各地でダム建設や資源採掘のために住民が立ち退きを命じられることがありますが、今回鉄鉱石採掘のために移転が進められているスウェーデン北部に位置するキルナ市の場合、市民の多くがスウェーデンの国営LKAB(エルカーベー)社のキルナ鉱山で働くため、移転には賛成意見が目立ちます。19世紀初期から鉱業で栄えたキルナは、近年の中国需要の増加を背景にさらなる資源を求めていますが、移転計画はいくつかの問題点を抱えています。
2004年にLKAB 社が移転の話を持ち出したのち、市幹部は約20万平方メートルの住民居住地と、約20万平方メートルの公有地および商業地の建物の取り壊しと移転に合意。移転にかかる費用は全てLKAB社が負担しますが、約2万2000人が暮らす町には歴史的建造物も多く存在します。例えば、スウェーデンで最も人気のある建築物に選ばれたこともある1912年築のキルナ教会などはまだ移転先が定まっていません。
さらに、もうひとつ問題視されているのがトナカイへの影響。昔からトナカイを何万頭も飼っているスウェーデンの先住民、サーミの人々は毎年春になるとトナカイたちを丘の上へ放牧させます。冬になって雪が降るとトナカイたちはサミの人々の元へ戻りますが、移転計画では不安定な場所にあった作業用線路を反対側に動かしたところ、新しく引いた線路がトナカイの移動ルートに重なったため、サーミの人々が懸念しています。これを受け、LKAB社、キルナ市、そしてスウェーデン政府は、去年10月に問題の区域にトナカイ用の移動路として橋を建設。しかし去年の冬は寒さで地面が凍り、トナカイが渡るには危険すぎて使用できなかったそうです。
市民への情報普及と啓発を目的に、LKAB社は都市計画の広報を年に8度発行し、市の中心部に担当窓口を設けています。しかし、住民から「『自分の住まいはどこに移転させられるのか』と聞かれたとき、答えられない場合もある」と担当者。移転の詳細は未決定事項も多いのですが、鉱業都市・キルナは採掘区域を拡大しないことには町の経済発展が続かないというジレンマを抱えています。今後20年かけて移転するのは約3000人の住居ですが、鉱業の発展に伴って移転は続く予定で、100年かけて都市全体の移転も視野に入れているそうです。
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http://online.wsj.com/article/SB10001424053111903520204576484060348186614.html?mod=WSJ_WSJ_US_News_6