Food
2013.11.08 河内 秀子
1万2000人以上の来場者でにぎわったCheese Berlin photo by Hideko Kawachi
チーズ大好き、美味しいもの好き、そしてスローフードに興味がある人ならば、見逃せない注目イベント「Cheese Berlin」が11月3日、昨年に続いて屋内市場「マルクトハレ・ノイン」で開催されました。
地元ブランデンブルク州はもちろんドイツ全国、そしてイタリアはチロル地方やスイスなどからも30以上のスローフード、オーガニックの酪農家、チーズ農家が一堂に集まり、歩くのも大変なほどの盛り上がりに。チーズの販売やテイスティングはもちろん、チーズ作りに関する映像の上映トークショーなどもあり。中でも、興味を引かれたドキュメンタリー映画「Dancing with Horned Ladies」の上映会に足を運びました。
Trailer Dancing with horned ladies from Onno Gerritse on Vimeo
この映画は、オランダ東部ルンテレンにある小さな酪農場が、抗生物質を与えず、また角を切ることなく牛を育て、その濃いミルクを使って、全く新しい味わいのチーズを作るまでを追ったもの。
映画に登場したディルク夫妻は今回の「Cheese Berlin」に出店もしていてスタンドには行列ができ、飛ぶように売れていました。
17世紀に創業した家族経営の酪農場「De Groote Voort」。現在はヤン・ディルクさんが妻のイレーネさんとともにジャージー種の乳牛、約90頭を育て、チーズを作っています。ヤンさんの父、ペーターさんは1952年アメリカに行った際にジャージー種に「恋して」しまい、その当時オランダではまだ珍しかったこの種を自分の農家でも取り入れてみることにしたと言います。
息子のヤンさんの代にはオーガニック酪農に切り替え、さらには2004年から抗生物質を完全にストップし、除角もしないという、全く新しい道を歩み始めます。オランダに1万7000ある酪農家のうち、オーガニックを取り入れているのは330件。そのうち抗生物質を使っていない農家は15件しかありません。
「抗生物質を使わないことで、牛たちとの関係も格段に良くなりました。抗生物質は牛の体中に回り、糞として外に出て、周りのもの全てを殺してしまいます。抗生物質を止めたら草地にもハーブなどが生え、より肥沃になりました」とイレーネさん。しかし抗生物質を使わずワクチン接種などもストップしたため、役所に提出する書類の「必要項目」が空欄だった、とライセンスを取り上げられそうになったり、生まれたばかりの子牛の死亡率は高まり、実に3頭に1頭が死んでしまうといった問題も。
「なんで予防接種もせず、抗生物質も与えないんだ、皆やっているじゃないか。それが子牛が死亡しないための唯一の対抗策だ、と口々に言われました。でも何か方法があるはずです」
子牛は通常のように生後すぐ母牛から離すことなく、3週間は母牛と共に育てることで抵抗力を強めるように促してもいます。
また、通常は切られてしまう角を残したままにしているのにも理由があります。「角は新陳代謝の機能もあり、不要なミネラル分を調整します。また角の中にはくぼみがあり唾液がたまっているのですが、この唾液には酵素が含まれ消化を助けてくれます。私たちは、この酵素が牛乳の味と質に大きく関わっていると考えています」とヤンさん。
「私たちの農法、育て方はオランダでもまだやっている人は少ないですが昔は誰もがやっていたことです。自然は、どんなに知識豊富な人よりもいろいろなことを知っているものなんですよ」
角があることで一頭当たりに必要な面積も広くなり、抗生物質を使わないことで様々な手間もかかるので、決して効率的ではありません。しかしこの画期的な方法で育てた牛からは、本当に美味しい、季節や風土を閉じ込めた牛乳ができるのだそうです。
その牛乳から、表面にワックスなどを塗らずにバターオイルを塗って仕上げる「皮部分まで食べられるハードチーズ」を開発。そして、見事に2013年のオランダ&ベルギー産のベストチーズ賞を獲得したのです!
丁寧な仕事から生まれるこの商品の生産量は限られてしまいますが、独特の濃厚な香りにはミシュラン店のコックたちも関心を寄せフレッシュなハーブや野菜とのコンビネーションが考案されているとか。これからどんな味が生まれていくのか、楽しみです!
関連するURL/媒体