Food
2014.09.03 岩井 光子
「世界一のレストラン」NOMAの美しい一皿 Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Sakena
イギリスのベストレストラン誌が選ぶ「世界のベストレストラン50」のランキングで今年4月、見事1位に返り咲いたデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「NOMA(ノーマ)」。プロテスタントの禁欲的な生活習慣が根づくデンマークではハレの日がなく、ごちそう文化が育たなかった―などと言われてきましたが、2004年にオープンしたNOMAは、地元が誇る食材や伝統的な調理法をオーガニックやエコロジー、サステナビリティといった視点も加えて見直すことで新たな北欧料理のスタイルを構築。ヘルシーで見た目も美しい実験的なメニューの数々は、世界を魅了する北欧料理の新しい潮流「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ」へとつながりました。
真摯(し)に食と向き合ってきたNOMAのシェフ、レネ・レゼッピが4年前に仲間と共に設立したNPOがMAD(デンマーク語で食べものの意)。MADの一連の活動の中でも毎年おおいに盛り上がるのが、食に関心の高い世界の著名人が、自らの活動や思いについて語る夏のシンポジウムです。今年は8月24・25日にコペンハーゲンの特設会場で開かれ、世界各国の人気レストランのシェフを始め、TVタレント、園芸家、哲学者、作家、美術館のキュレーターなど様々な職業の20数人がプレゼンターとして登壇しました。
今年のテーマ「What is Cooking?」にふさわしいオープニングを飾ったのは北海道・ニセコのそば店主の頼立(らいたつる)さん。静寂に包まれた舞台に上がり、熟練の技で磨かれた美しい所作でそばを打ち、観客を魅了しました。
興味深いコラボプロジェクト「Loco'l」を発表して喝采を浴びたのは、ロサンゼルスで人気の屋台トラック「コギBBQタコ・トラック」を展開するロイ・チョイとサンフランシスコで現地の若者たちを対象にした料理教室プロジェクトに力を入れるデビッド・パターソン。2人は「料理人には深刻な貧困や飢餓の問題に対し、もっとできることがある」と、昨年のMADシンポジウム以降、意気投合。「ホンモノの食べもの」から遠ざけられている地元の人たちに、安くて健康的で栄養のある料理を提供するまったく新しいコンセプトの「ファストフード店」を2015年春以降、ロサンゼルスやサンフランシスコに展開していく計画だと言います。
また、アメリカの都市部でゲリラガーデナーとして活動するロン・フィンリーは、都会の空き地や中央分離帯、縁石のへりなどで野菜を育て、地元の人たちの食習慣を改善していく活動の意義について語りました。栄養失調の深刻な南ロサンゼルスの食の砂漠地帯(food desert)で育ったロンは、「都市部の荒廃地をドライブ・スルーして見過ごす場所でなく、立ち寄る(ドライブ・イン)場所へ変えていきたい」と強く訴えました。
ポルトガルのイザベル・ソアレスは、EUの基準に合わず、破棄されてしまう規格外の果物や野菜を回収して販売するFruta Feia(英語でUgly Fruitの意)の取り組みを紹介し、フードロス問題と真正面から向き合ってきた経験を語りました。
ファストフードチェーンの台頭がもたらした世界の食の生産面、人間の健康面に関連する様々な問題、先進国で膨れ上がる食糧廃棄の量など、食の将来を思わず悲観してしまうような現実も多くありますが、今年もMADシンポジウムでは自ら先頭に立って食の未来を切りひらこうとする開拓者たちの刺激的な提案が満載でした。レネの掲げるNOMAの哲学が北欧のみでなく、アメリカで、ブラジルで、南ヨーロッパで、新しい潮流となっていることをダイナミックに感じることができます。今年のMAD(MAD4)の報告は公式サイトやFacebookなどで閲覧できるので、食に興味のある方はぜひのぞいてみてください。
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