Food
2017.03.30 河内 秀子
各州で選挙が続き、再び難民問題に揺れ動くドイツ。昨年だけで30万人以上の難民がドイツにやってきたと言われていますが、そのうち最も多いのはシリアからの難民、次いでアフガニスタン。そして、イラク、イラン、エリトリアと続きます。
しかし昨年11月、ドイツ連邦政府は、アフガニスタン中心部は「安全である」とし、アフガニスタン出身の難民申請者の強制送還をはじめました。たとえ「安全」とされても、タリバンからの攻撃は続き、経済基盤も弱いアフガニスタン。特に女性は貧困にあえぎ、権利の剥奪(はくだつ)に苦しむ人も少なくないのです。
なぜ故郷を去り、他の国へと逃れなければいけないのかー。難民となる理由、根本的な問題の解決策を探ろうとするプロジェクトが、ベルリンで始まりました。
「Conflictfood」(紛争フード)と名付けられたこのスタートアップ企業は、パレスチナやアフガニスタン、ヨルダンといった、紛争や貧困にあえぐ国を訪ね、小さな農家から直にその土地特有の農産物を購入し、販売しようというものです。
ヴュルテンベルガー(右)とエル=モガデディ。ベルリンでシリア難民がスタートしたケータリング会社と共に、ブランチイベントを企画したりも
このプロジェクトを始めたのは、アフガニスタン出身の両親を持つサレム・エル=モガデディとジェルノー・ヴュルテンベルガー。2015年、ファッション業界で働いた後、アフガニスタンとパキスタンのNGOで働いていたサレムと建築家のジェルノーは、サレムの父が働くカブールの孤児院を訪ねた際、サフランを栽培する女性団体の話を耳にしたと言います。
サフランの花を摘み、商品となる雌しべの先端だけを切り取るのは全て手作業。重労働で人手も必要なため、価格も高くなる
「その話が忘れられなくて、数週間後、その畑を訪れたんです。鮮やかな色合いのサフランの花が咲き乱れる畑で、早朝、まだ日が昇る前に花弁を摘んでいく女性たちー。帰りは何キロものサフランと、このスタートアップ企業のアイデアをいっぱいに詰め込んでドイツに帰国しました」とジェルノーさん。
それからパッケージやフライヤーをデザインし、オンラインショップを立ち上げました。ジェルノーさんはあえてこの商品を『紛争フード』と名付けることで、意識を促したかったといいます。
現在オンラインで購入可能なサフラン。2グラムで39ユーロ。サフランだけでなく、アフガニスタンで暮らす人々の物語やポストカード、サフランを使ったレシピなども同封されている
「紛争や内戦......その時々はニュースになっても、自分の身近にないことと、すぐ忘れられてしまいますから。そしてこのビジネスを通じて、難民問題の根源的な原因と戦いたかったんです」
サフランの次のプロジェクトは、パレスチナの伝統食材「フリーケ」(Freekeh)。小麦をまだ緑のうちに摘んで燻(いぶ)して作るフリーケは、独特の香ばしい風味がサラダなどにもぴったり。
クラウドファンディングでオーガニックのフリーケを販売するための資金を集め、パレスチナへ。今月からオンラインでの販売をスタートしたところ、早くも売り切れ続出で、現在は再販売に向けた準備真っ最中の2人。次に目指すはエリトリア、ヨルダン。塩、スパイスやドライフルーツなど様々な食材の販売を予定しています。売り上げの一部は、紛争地のソーシャルプロジェクトの支援に回されます。
紛争地で作られる特産品を手に取り、料理することで、その土地の暮らし、文化や歴史への興味もわいてきます。農産物の定期購入による経済的な援助はもちろんのこと、そういった興味や想像力こそが、紛争から人々を助ける力になるのかもしれません。
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