Food
2017.05.23 宮原 桃子
©Winnow Solutions 英国ウィノウ・ソリューションズ社の食品ロス削減アプリ
冷蔵庫の奥でダメになった食品や野菜を捨ててしまったこと、レストランで食べきれずに残してしまったこと、そんな経験は誰しも少なからずあるのではないでしょうか。しかし、塵(ちり)も積もれば山となるとはこのことで、今世界で生産されている食料の3分の1は廃棄され、その量は年間約13億トンにも上ります。日本だけでも、1年間の食品ロスは約632万トンで、これは世界の食糧援助量のほぼ2倍の量です。
この危機的な状況を目の前に、世界中で食べ物を無駄にしないよう呼びかけるキャンペーンや、規格外の野菜や食品を販売・調理するイベントが行われたり、売れ残り食品専門のスーパーがデンマークで誕生したりするなど、さまざまな形で取り組みがなされています。一人ひとり、各家庭での努力はさることながら、小売業や外食産業など企業レベルで食品廃棄を削減することが、大きな課題になっています。昨年フランスで、大型スーパーの食品廃棄を禁止し、慈善団体へ寄付することを義務付ける法律が施行されたことも記憶に新しいでしょう。
©Andreas Bro デンマーク初の売れ残り食品専門のスーパー「WeFood」は、昨年秋に2号店も開店
そこで今世界中から注目されているのが、外食産業やホスピタリティ産業向けの食品削減アプリ。昨年末に英国の「ビジネスグリーン・テクノロジー・アワード」を受賞したウィノウ・ソリューションズ社は、スマートスケールとタブレット用アプリを活用して、 多くの企業に画期的な変化をもたらしています。ユーザーは、例えばレストランの厨房のゴミ箱にスマートスケールを取り付け、食材を廃棄するごとにタブレットのスクリーンで種類を選択すると、スマートスケールが食材の重さとコストを自動的に計測し、データを記録します。蓄積されたデータはクラウドソフトウェアで解析され、分析レポートが毎日配信されます。
©Winnow Solutions 同社アプリは、誰でも簡単に利用でき、15分程度のトレーニングで使えるようになるとのこと
現場で働く人たちから経営者まですべての関係者が、何がどれだけ無駄になり、その傾向や損失金額まで把握できることで、具体的な対策につながります。例えば、頻繁に食べ残しが記録されたステーキは、サイズダウンし、ほとんど手を付けられないオートミールは 、取り皿の大きさを変えてみる、といった具合です。同社アプリを利用している企業では、食品廃棄量を1年間で平均50%削減、 食材調達費を3〜8%削減することに成功しているそうです。 また、こうした分析と実践を通じて、食品廃棄に対する経営者や社員の意識も大きく変わります。
同社は2013年の創業以来、顧客数を伸ばし、世界的なホテルチェーンのアコーホテルズやフードサービス大手のコンパスグループなども同社アプリを導入。現在、世界25カ国に広まっています。また4月には、 ドバイ首長国政府と同社が、ホスピタリティ産業における食品ロス削減に向け連携することで合意しました。 すでにアプリを導入しているドバイの7つのホテルでは、食料廃棄量を33トン削減することに成功しているそうです。同社アプリを通じて、これまでに世界で365万食が節約されました。 これは約370万ポンド(約5億3650万円)に相当し、食品削減だけでなく、企業にとって経費削減や収益性の向上につながっています。また、無駄な流通を省くことで、約6200トンのCO2 排出量が削減されたということです。
Pullman Dubai Creek City Centre Case Study
ドバイのホテル「Pullman Dubai Creek City Centre & Residences」では、同社アプリを採用してから4か月間で、食品調達費を4%削減(約2万ドル/約220万円)
ウィノウ・ソリューションズの他にも、世界各地で食品ロスを減らすためのアプリが広まっています。レストランやスーパーなどで余った商品の値下げ情報を消費者に知らせるアプリには、 ヨーロッパで広まる「Too Good to Go」(本サイトの記事はこちら)や「NoFoodWasted」、「11th Hour」(シンガポール)などがあり、消費者のニーズを満たしながら食品ロスの削減につながっています。また、「Food Cloud」(英国)や「No Food Waste」(インド)など、小売店などで余った商品を慈善団体へ寄付する仕組みを支えるアプリもあります。
深刻な食品廃棄問題を抱える先進国と、食糧難に苦しむ国ぐに。この不均衡な世界は、待っていたら誰かが変えてくれるわけではありません。一人ひとりの個人、企業、行政などそれぞれが意識を持って、行動すること。これは、誰もが簡単にすぐできることではないかもしれませんが、食品ロス削減アプリのような新しい発想とテクノロジーが大きく後押ししてくれるのではないでしょうか。さまざまな場で活用できる食品ロス削減アプリ、日本でも広まることを期待したいですね。ウィノウ・ソリューションズ社も、「日本市場は、人口の規模も大きく、巨大な外食産業やホスピタリティ産業があり、このアプリで問題解決に貢献できる」と語っており、今後日本での顧客開拓にも力を入れていくそうです。
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