Food
2011.11.01 瀬戸 義章
「はざかけ」。天日で1週間ほど乾燥させることで味がよくなる photo by yoshiaki seto
田んぼにしゃがみ込んで、台風で倒れてしまった稲を起こし、ひとたばずつ収穫していきます。思ったより力を入れなくても、鎌でひょいひょいと刈ることができるようです。あまり調子に乗ると、あとでバテるので、マイペースで進んでいきます。そう、この着実さこそが「農」!
刈り取ったたばが大根ほどの太さになったら、地面に寝かせて、ひもでくくっていきます。あとで「はざかけ」といって、風味をよくするために乾燥させるからです。振り返るとスッキリした田んぼが見えて、なかなかの達成感でした。
ここは、茨城県石岡市の農家「ORGANIC FARM暮らしの実験室」。10月15、16日に行われた稲刈りツアーに参加しました。暮らしの実験室は、1974年に発足した「たまごの会」が前身で、完全無農薬の有機栽培をかかげた農場のパイオニアです。40アールの田んぼと、2ヘクタールの畑。畜舎には800羽の鶏と、40頭の豚がいます。近くの小・中学校から受け取った給食の残飯や、小麦、米ぬかなどを自家配合した飼料、野菜くずなどが豚や鶏の餌となり、彼らの糞は肥料となって、野菜がすくすくと育つのです。敷地にはこのほかに石窯や燻製室、手作りの竪穴式住居までありました。神楽の舞台とツリーハウスを装飾して結婚式が行われることもあるそうです。
ちかごろ暮らしの実験室のスタッフが胸を痛めているのは、福島第一原発事故による放射能汚染と、その風評被害。農業体験ツアー参加者は回復傾向ですが、野菜の売れ行きは半減したそうです。ちなみに、ガイガーカウンターを持参して、刈り取った稲の上で測ったところ、結果は毎時0.01マイクロシーベルトでした。年間では0.88ミリシーベルト。ちなみに日本国民が1年間に浴びる放射線の平均値は1ミリシーベルトです。
もしあなたが食の不安を感じているのだとしたら、生産者と友だちになる、ということも一つの手段だと思います。放射能にしろ、農薬にしろ、食べる人の健康のことや環境のことをつねに考えて、勉強し、研究し、試行錯誤して、精一杯の愛情を込めて「食べもの」をつくっている人こそ、ほんとうの生産者なのですから。
今回のツアー参加者は約20人。農場のスタッフは、人の交流が多いだけあって、みな気さくです。都会から離れて、四季を感じられる場所でもあり、友だちをつくれる場所でもあり、暮らしを見つめ直す場所でもあるこの農場。農作業には参加せずに、ふらりと泊まりに来る人もいるとか。特急をつかえば上野駅から1時間半で来ることができる気軽さもあるのでしょう。
「伝えたいことってなんだろう、って、稲刈りの間ずっと考えていたんですけど、なかなか思いつかなくて。いってみればこの田んぼ、この暮らしがぼくたちの『作品』なんです。言葉で語るよりも、実際にここに来て、楽しんで、そして感じてもらいたいです」と、スタッフの一人、茨木泰貴さんからのメッセージです。
農場では、稲刈り以外にもさまざまなイベントが行われています。詳細はこちら。
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