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ハシゴの前で立ちすくむ女性に共感 国連ウィメンの「男女平等に関する風刺画コンテスト」

2015.07.28 平澤 直子

Rarely seen in the US of A:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Jørgen Schyberg

女子学生は就職活動で初めて「男女不平等」の壁に突き当たる、とこの記事にはありますが、私が「男女平等」という言葉に敏感に反応するようになったのは子どもを産んでからでした。高校、大学と、男子よりも女子の多い環境でのびのびと過ごしてきた私はそれまで、女性だからといって男性より下に見られるような経験はしたことがありませんでした。就職した先は圧倒的な男性優位社会でしたが、私は男性側に数えられていたので、違和感を感じることはあっても、不利益を被った覚えはほとんどありません。そうしてある意味恵まれた時を過ごして30代になり、子どもを産んでみたら一気に逆転。自分が女性というだけでなぜここまで苦労しなくてはいけないのかと憤りを覚えたものです。

そんな私の目に最近留まったのが、男女平等と女性のエンパワーメントのための国連機関であるUN Womenが今春、EC (欧州委員会)、ベルギー開発協力機構、国連地域情報センターとともに開催した「男女平等に関する漫画・風刺画コンテスト2015」。その受賞作品などを今、特設サイトで見ることができます。

コンテストの応募条件は18歳から28歳の若いヨーロッパの漫画家・風刺画家(学生も可)であることと、台詞なしで男女平等に関する漫画・風刺画を描くこと。審査員にはプロの漫画家のほか、ECの平等担当官、ベルギーの開発協力大臣やUN Womenのコミュニケーションの専門家などが名を連ねました。

1位を獲得したのはスペインのグラフィックデザイナー、Emilio Morales Ruizさん。女性マークの風船が男性マークの風船より小さく低く浮いている絵から始まる漫画を描きました。2位は赤ずきんちゃんが狼を縛り上げている風刺画で、こちらもスペイン出身のDavid Ibáñez Bordalloさんの作品です。

続いて3位、セミファイナリストの作品が続きますが、その中で私がもっとも共感したのが、3位のポーランド出身の女性、Agata Hopさんの風刺画です。荷物を持たずにエスカレーターで上がっていく男性の横、子どもををおんぶし、両手に大きな荷物を持った女性の前にははしご。女性は登れずに立ち止まっています。

私と同世代の女性には、こうした場面をリアルに体験した人が多いのではないでしょうか。私は子どもがまだベビーカーに乗っていたころ、駅の階段の前で立ち往生したことが何度もあります。エレベーターがない駅、あっても非常に遠回りをしなくてはならない駅、そういった不便な駅が東京にはたくさんあります。私は子どものおむつやおもちゃや着替えでパンパンになった大きなマザーズバッグ(※1)を背負い、片腕にベビーカー、片腕に10キロ以上ある子どもを抱えて階段を上ったり下ったりという経験が何度もあります(余談ですが、一度だけ、階段を下りるのを助けてくれた男性がいました。下りきって振り返ると、その人は白人男性でした)。

また、私は出世をする前に会社を退職しましたが、今も子育てをしながら会社勤めをしている女性の中には、これが出世街道に見える人も多いことでしょう。子どもを産むまでは男性と同じようにエスカレーターを上がっていたのに、子どもを産んでみたら、保育園探しから子どもの世話、果ては家事まで、なぜか自分だけに降りかかっているし、子どもが急に熱を出したり不安定になったりと、思うように仕事ができない日々が続き、子どもが大きくなるまでははしごどころか綱渡りの日々だったという話も、先輩女性たちからよく聞きます。

この風刺画の作者のAgataさんは、実はまだ高校生です。本人も、遠く離れたアジアの島国で、自分の絵がこんなにも共感を得るとは思ってもみなかったことでしょう。2014年のポーランドのジェンダーギャップランキング(※2)は57位(日本は104位)と日本よりは上ですが、ポーランドでも働く女性の大変さは、日本のそれと大差ないのかもしれませんね。

最後にもう1つ紹介したいのは、セミファイナリストの1人、ドイツのOlga Schikunovさんの作品です。壁に背の高いすらっとした体型の人型の穴があいていて、これを通り抜けられた人だけが壁の向こう側で観衆の拍手喝さいを浴びられるしくみになっています。けれども穴を通ろうと並ぶのは、中肉中背の女性、背の低い中年男性、子ども、と、多種多様な人たち。どの人も、この穴を通り抜けられる気がしません。ぴったりとはまった人だけが勝者、それ以外は退場、というこの風刺画、男女平等問題に限らず、多様性を受け入れない社会を風刺しているように見えます。

男女平等とは決して男性の位置に女性を引き上げることではなく、男性も女性もその性別により期待されている役割から自由になることである、と私は思うのですが、みなさんはどう思いますか? 「男女平等に関する漫画・風刺画コンテスト2015」サイトの作品を見て、考えてみてください。

※1 母子手帳や哺乳瓶など、細かいものが入れられるようにポケットがたくさんついた大型バッグ。就職活動のための黒い革製のカバンと同様、出産をするとこれを買い求める人が多い。
※2 世界経済フォーラムが毎年発表している、各国の男女格差を指数化して測定、格付しているもの。測定分野は「経済活動への参加と機会」「教育」「政治権限」「健康および生存率」の4分野。



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平澤 直子