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伝統芸能で岩手の復興を、「三陸復興カレンダー」

2011.12.27 瀬戸 義章

SAVE IWATEの三陸復興カレンダー、表紙は大船渡市の浦浜地区に伝わる念仏剣舞(けんばい) photo by yoshiaki seto

岩手県山田町には、直木賞作家の三浦しをんが「小説のすべてがありますね」と評した伝承があります。『遠野物語』第99話におさめられているその一編は、明治29(1896)年に三陸海岸を襲った大津波から、1年後が舞台。

津波で妻と子を失った福二という男が、夏のはじめの月夜に、亡くなった妻と再会する。ふりかえって笑う妻のかたわらには、嫁ぐまえに心を通わせていたという、別の男の姿があった。いまはこの男と夫婦だという。未練の言葉をかけて妻を泣かせても、彼女の心は戻らない。二人は去り、夜明けまで福二は呆然と立ちつくしていた。その後、彼は病んだ。

という、短く、せつない物語です。

東北学の提唱者で、東日本大震災復興構想会議委員でもあった赤坂憲雄はこう言います。「この小さな物語によって、明治29年の『三陸大津波』はくりかえし記憶をよみがえらせる。物語は記憶の大切な媒体(メディア)である」伝承をていねいに掘り起こして「人としての身の丈に合った暮らしの知恵や技を、民俗知として復権すること」を赤坂氏は説いています。

一方、東日本大震災の被災者は、岩手県の山林でクルミを拾い集めました。

三陸地方に多く自生している鬼グルミを、1キロにつき250円で被災地支援組織であるSAVE IWATEが買いとったのです。もともと、岩手では「おいしい」という意味で「クルミの味がする」という言い回しが使われていました。かつてはハレの日に食べるごちそうだったのです。その風習が廃れてしまったいまでも、木は残っているので、クルミの実は拾い放題。SAVE IWATEのもとには20トンものクルミが集まりました。

もともとSAVE IWATEは盛岡を拠点に、被災地各地への物資運搬や情報提供をしていました。事態のフェーズ(段階)がかわるにつれ、被災者でもできる手しごと「復興ぞうきん」プロジェクトを行い、さらには、東北の大地に文字通り眠っていたクルミを使って、産業を興す取り組みをはじめているのです。クルミを使ったお菓子や料理、さらには殻を使った工芸品や園芸用品まで、複数の企画が進んでいます。

岩手県には、東北には、まだまだ多くのものが隠されていて、それを上手に活かしていくことが、「復興」につながるのかもしれません。

SAVE IWATEは、岩手県三陸沿岸の祭・民俗伝統芸能情報をまとめた「三陸復興カレンダー」を作りました。ウェブサイトにはこう書かれています。

「岩手県は郷土芸能の宝庫といわれ、沿岸部には約250団体の郷土芸能が伝承されています。(中略)この度の震災により、多くの芸能団体が尊い命と共に道具や衣装を失いましたが、御魂の供養をと、お盆の頃からわずかに残った道具を持ち寄り活動を再開している団体が多くありました。仮設から通って太鼓を叩き始める人、泥に埋もれた山車や道具を洗い清める人、それはまさに鎮魂と祈りの姿でした。三陸沿岸の人々はいま、震災を乗り越えるために歩み始めています。カレンダーを見る時、三陸復興に思いを寄せていただけましたら幸いです」

そもそも「まつり」には、非日常のことに時間をかけて、地域の縁を強化するという機能があると言います。この町に誰がいて、誰がいないのかを把握する。ひとつのものごとに向けたプロセスを共有する。そうすることで、いざというときの対応力が高まっていくのです。困難に立ち向かうための伝統的な知恵でもありました。

「復興カレンダー」はこちらから手に入ります。あなたも、東北の知恵を、宝を見つけてください。



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瀬戸 義章