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Peace

家族で話そう、平和のこと
被爆3世と家族を写すポートレートプロジェクト

2017.07.26 宮原 桃子

©堂畝紘子
長崎の被爆3世とその家族のポートレート


私たちの日々の暮らしの中には、 戦争や平和を考えるきっかけがゴロゴロしています。 毎日のように報道される世界各地の紛争や難民のニュース、憲法9条改正を巡る議論、学校の授業...。しかし、どことなく遠い外国の出来事や過去の歴史としか感じられなかったり、自分とは関係のないことと思ったりする人も多いかもしれません。

ただ、もっと身近なところに、戦争や平和を考える場があります。 それは、「家族」。皆さんは、戦争を経験した祖父母や両親、 親せきなどと、戦争や平和の話をしたことはありますか? 私は、祖母から戦争の話をよく聞きますが、身近な家族から聞く体験談には、教科書で学ぶのとは違う現実感があります。また、その世代と今の日本や世界について話をしてみると、自分にはない視点や考えに触れることがあり、とても興味深いものです。しかし私の周りでは、「おじいちゃんやおばあちゃんが生きているうちに、きちんと戦争の話を聞いておけばよかった」という後悔の声をよく耳にします。戦後72年が経ち、戦争を体験した世代がこの世から去っていく現実があります。

広島で「こはる写真館」を営む写真家・堂畝(どううね)紘子さんは、こうした孫世代にあたる広島の「被爆3世」とその家族のポートレート写真を撮る活動をしています。 そこには、ただ家族写真を撮るということ以上の意味があります。被爆した世代から孫世代、ひ孫世代までの家族が集まるなかで、 改めて戦争体験に耳を傾け、 家族で平和のことを考える場ができます。2015年に活動を始めて以来、約50の家族のポートレートを撮影しました。


©堂畝紘子
広島の被爆3世とその家族のポートレート


写真撮影に際しては、被爆をしたご本人から被爆3世に対して体験を話してもらう時間を取っています。また、毎年行う展覧会では、 家族写真のキャプションを被爆3世自身に書いてもらうようにしています。こうしたプロセスを通じて、被爆3世から「今日は撮影に来てよかったです」、「撮影の時だけでなくその後も祖父母から話を聞くようになりました」と言われたり、 平和記念資料館に改めて足を運ぶきっかけになったりと、若い世代に変化が生まれているそうです。堂畝さんは、「写真撮影が、家族の中でこうした話をしたり聞いたりするきっかけになればいいと思っています。まずは過去を知ることから始めなければ、今や未来の平和を考えることにもつながりません」と話します。


©堂畝紘子 
昨年の写真展の様子。家族写真のキャプションは、被爆3世が書いている


堂畝さんは、広島で幼い時から平和学習に触れて育ち、高校時代も8月6日の平和記念式典ボランティアを続けるなど、一貫して、どうすれば戦争がなくなり、平和な世の中にできるかをテーマにしてきました。写真家になってからもその想いは変わりません。今の若者の中に「日本も核兵器を持てばいい」と思っている人が増えているという話を耳にし、本当に自分や誰かが核兵器の犠牲になったらどうなるか、現実感を持って考えられているのかと疑問を感じたそうです。すべてがどこか現実感のない「他人事」になっていないか。戦争や平和を「自分ごと」として考えてられるきっかけを作りたいと感じています。

被爆3世と家族の姿を写す堂畝さんの活動には、時に「もっと悲惨な被爆や戦争の現実を伝えるべき」 といった厳しい意見が寄せられることもあったそうです。確かに、厳しい現実や悲惨な過去をダイレクトな形で知ることも大切です。 しかし、全く関心がなかったり、悲惨な写真や映像にはつい目を背けてしまったりする人たち、小さな子どもから大人まで、できるだけ多くの人たちに伝えるためには、 さまざまなきっかけや場づくりが必要です。堂畝さんは、こう話します。「家族・家庭は、人がさまざまなことを学び、育っていく基礎になる場所。家族の中で戦争や平和のことを伝え、話をすることは、とても大切です。身近な家の中に、学びのタネがたくさん落ちていて、それに水をやれば、いつか子どもたちや若い世代のなかに芽が出るかもしれません。 家族という場所は、大きな可能性に溢(あふ)れています」


写真家の堂畝紘子さん。柔らかな雰囲気のなかに、平和への強い信念と情熱を感じます

堂畝さんは、さらに多くの人にきっかけを作ろうと、昨年からさまざまなアーティストとのコラボによるプロジェクト「被爆三世―これからの私たちは―」を立ち上げました。 このプロジェクトでは、この夏に広島(7月30日~8月5日)と長崎(8月8日~9月3日)で、展覧会「生きて、繋(つな)いで」を開催します。書や絵本、写真、映像、語りなどさまざまな表現を通して、過去の記憶を今や未来につないで平和を考える作品展が行われます。

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©堂畝紘子
この夏に広島・長崎で開催される作品展

また堂畝さんは、こうしたテーマに対する広島・ 長崎とそれ以外の地域での温度差も感じています。 これからの目標は、原爆や戦争、平和の話がローカルで終わらず、広くみんなが考えられるような場を作っていくことです。来年5月には東京でも写真展を開催することが決まっています。

世界の平和を想う時、とてつもなく大きなテーマにも感じられますが、まずは一番足元の家族で話すことから。家族や親せきのなかで、戦争の記憶や平和への想いを聞くことのできる時間は、じわじわと消えつつあります。 聞くことで何かがすぐ変わるわけではないかもしれないけれど、少なくとも知って感じて考えることはできる。日常の中で、戦争や平和、政治などのテーマを、家族や友人、同僚など身近な人たちと話してみることは、社会に蔓延する「無関心」や「他人事」 を少しずつ変えていく一番の近道かもしれません。



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宮原 桃子