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小さな命と母親を救う「こうのとりのゆりかご」

2014.01.27 平澤 直子

Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Cary and Kacey Jordan

1月17日、日本財団にて同団のハッピーゆりかごプロジェクト公開研究会「こうのとりのゆりかごと24時間妊娠SOS」が開催され、「こうのとりのゆりかご」発案者でもある熊本県の医療法人聖粒会 慈恵病院理事長兼院長の蓮田太二氏の講演が行われました。

「こうのとりのゆりかご」とは、2007年に同院に設置されたいわゆる「赤ちゃんポスト」(実の親が育てることのできない赤ちゃんを匿名で預けられる場所)のことで、最近では関連したドラマの放映を巡り、議論も起こっています。

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蓮田太二氏  写真提供:日本財団


蓮田氏は、母親のうつ病により子どもを虐待死させた事件などにいつも心を痛めてきましたが、2005年から2006年にかけて、熊本で3人の赤ちゃんが遺棄され死亡した事件をきっかけに、「こうのとりのゆりかご」の設置に踏み切りました。賛否両論ある中、2013年3月末までに92人の乳幼児がゆりかごに預けられ、小さな命が救われました。

蓮田氏が「こうのとりのゆりかご」のモデルにしたのはドイツの「赤ちゃんの扉(こちらもいわゆる赤ちゃんポスト)」で、これは2000年に保育園に設置されたのを皮切りに、2012年時点でドイツ国内に99カ所にまで広がっています。また、近隣諸国(スイス、オーストリア、ベルギー、イタリア、バチカンなど)にも存在します。

ドイツではもともとキリスト教の影響で人工中絶が容易ではなく、望まれない赤ちゃんが多数生まれている背景があり、そのような赤ちゃんと、赤ちゃんを育てることができない状況にある母親を救う母子救済プロジェクトの一環として、匿名出産(※1)と赤ちゃんポストが生まれました。ドイツ青少年研究所によれば、1999年から2010年までの間に、少なくとも652人が匿名出産をし、278人が赤ちゃんポストに預け入れられたそうです。

一方日本には、匿名出産という制度はないものの、妊婦一人での自宅出産は母子ともに危険であることから、前述の慈恵病院が2002年に設置した「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」で病院での出産を呼び掛けています。この窓口への相談は、2006年11月の「こうのとりのゆりかご」構想が報道されてから急増し、2013年3月末までに3767件もの相談が寄せられました。こうした事前の相談に加え、「こうのとりのゆりかご」の扉の横にはブザーが設置されていて、赤ちゃんをゆりかごに預ける直前にも、ブザーを押して相談をすることができるようになっています。

こうして相談することができた場合、赤ちゃんは実親が育てることになったり、特別養子縁組(※2)を組んだりと、家庭で養育される可能性が高くなりますが(※3)、相談なく匿名のままゆりかごに預けられ、その後も実親の申し出がない赤ちゃんは、出生地の児童相談所の管轄に置かれ、大多数が乳児院、児童養護施設で育てられます。これは、ゆりかごに預けられた赤ちゃんが施設に預けられるのではなく、養子に迎えられるドイツとの大きな違いで、「誤算」であったと蓮田氏は述べています。蓮田氏は、母子の絆は生後3カ月までに非常に強く結ばれるため、3カ月以内に一貫して家庭で育てられるようにと考えており、そのために、早い時期の特別養子縁組を勧めています。

しかし、養子縁組が年間3886件(2012年)もあるドイツに比べ、日本の養子縁組件数は年間790件(2012年)、特別養子縁組は339件(2012年)と少なくなっています。これは、血縁を大事にする日本の風習もあります。しかし、養子を迎えたい家族が7500家族も登録されていること、慈恵病院にこの7年で1092件もの養子希望が寄せられたことから、風習だけではなく社会システムが原因となっているとの指摘もあり、民法改正も含めたシステムの改革が叫ばれています。

また世界では、養子縁組以外の方法でも家庭に近い養育環境を与えようとする動きもあります。1949年にオーストリアで誕生した児童支援組織SOS 子どもの村では、マザーという有資格者を育成し、マザーと少人数の子どもたちが一緒に生活することで、可能な限り家庭に近い環境を実現しようとしています。現在、SOS 子どもの村は133カ国で事業展開をしており、日本では福岡と東北に村があります。

「こうのとりのゆりかご」構想が発表された際、「子捨てを助長するのか」との反発がかなりありましたが、「こうのとりのゆりかご」は「子捨てポスト」ではなく「望まない妊娠で困っている母子を救う新たな試み」であるといえます。誰にも相談できない状況下で、「こうのとりのゆりかご」の存在を思い出し、相談の電話をかければ、母子の今後を一緒に考える機会を与えられる。そうすることで、生まれた子どもを殺害または遺棄するという罪を犯さずにすむ。「こうのとりのゆりかご」とその相談窓口があることで、母親の未来と心、それに小さな命が救われるのです。「匿名でのゆりかごの利用は子どもから本当の親を知る権利を奪う」などの議論もありますが、それよりも優先すべきは子どもの小さな命であるのではないかと思うのです。

※1 匿名で出産ができる制度で、費用は多くの場合無料。望まない妊娠をし、頼るあてもない妊婦は多くの場合、妊娠の事実を隠しており、身元が発覚するのを恐れて通院せず、不衛生な場所で一人出産をし、自分と新生児双方の命を危険にさらしている。

※2 6歳未満を対象に、戸籍上も実親との親子関係を断ち切り、養親が養子を実子と同じ扱いにする縁組。

3 慈恵病院に寄せられた相談のうち、実親が育てるとなった例は235件、特別養子縁組となった例は190件、一時的に乳児院に預けることになった例は28件。



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