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2016.05.14 平澤 直子
高齢者の飼うペットの「公助」を提案する福元氏の模型
2011年の東日本大震災、2015年の鬼怒川決壊、そして先月の熊本地震。たびたび襲いかかる自然の脅威に、防災のあり方を考え直す必要性に迫られているように感じます。個人の防災意識の高まりに加え、東京都では昨年9月、災害への備えを、マンガやイラストを多用しわかりやすくまとめたハンドブック「東京防災」を都内全戸に配布するなど、自治体の力の入れようも見て取れます。
そんな中、防災を、少し切り口を変えてとらえた展示が開催されています。ペットの避難について、ペットを飼う人と飼わない人がいっしょに考える「いぬと、ねこと、わたしの防災 いっしょに逃げてもいいのかな?」展。2005年より殺処分の問題を取り上げてきた世田谷文化生活情報センター「生活工房」で、今月22日までの開催です。
会場を入ると、左のポスターの問いに答えるように「いいんだよ」のポスターが現れる(右)。写真提供:せたがや文化財団 生活工房(左)
災害時にペットを連れて避難することを「同行避難」と呼び、国はこれを推奨しています(2013年に環境省が「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定)。よって、「いっしょに逃げてもいいのかな?」に対する答えは、一応「いいんだよ」になり、実際、熊本地震では、ペット連れ家庭専用のバルーンシェルターやペット専用のプレハブが用意されたりしています。ですが、避難所でペットが原因で起きるトラブルの話も聞きますし、動物病院や猫カフェが独自にシェルターを用意しなければならないといった事実からも、避難所の数や対応が不十分であることがわかります。「いいんだよ」=避難所に連れて行けば安心してペットとの生活が送れる、ではないのです。この展示は、ペットを飼っている人と飼っていない人の両方が、「いいんだよ」といえるように、お互いが、そして避難所や行政がどうすべきかを考えさせる構成になっています。
災害が起きたときの状況をいくつかに場合分けし、それに応じてどう行動すべきかをチャートにしてある
ペットを連れた避難に関する意識調査の結果。ペットを飼っている人が避難所に求めることの第1位は「餌(えさ)の確保」だが、ペットを飼っていない人では「ペット飼育者と非飼育者との生活空間を分けて欲しい」
ペットを飼っている人に向け、避難先でペットが安全に過ごせるよう、折りたたみ式の小屋やケージ、ペットを背負って逃げられるリュックなど、クリエイターによるペットの防災グッズが提案・展示される一方で、ペットに馴染みのない人に向け、「暮らしの中でペットがいてあたりまえの状況を作ること」が災害時のトラブルを減らす、という考えで「ペット×防災」アプリを提案するクリエイターもいます。ザッパラスでアプリ開発を手がける長谷川晃一氏です。日常に動物がいることを意識してもらおうと、迷子ペット捜索アプリや日常生活に隠れているペットを探すゲームなど、多数のアプリを提案しており、そのイメージ写真なども本展で見ることができます。
写真手前:折りたたみ可能なハウス、写真奥:折りたたみ可能なケージ
また、行政(世田谷保健所)からは、ペットの同行避難は公衆衛生上のリスク軽減につながるとの説明がある一方で、駒沢どうぶつ病院の医院長で東京都獣医師会世田谷支部支部長である田部久雄氏は、普段から予防接種や皮膚病の治療を行っておくようにと飼い主にアドバイスをしています(狂犬病の予防接種をしていないと避難所に入れないということもあるそうです)。また同氏は、世田谷区に94ある避難所は動物受け入れ体制が明確でないと語り、避難訓練のモデル校に働きかけるなどして「動物避難マップが作れるとよい」と提案しています。これは、飼い主の役に立つ一方で、動物アレルギーの人が動物のいる避難所を避けられるという意味でも、実現を急ぎたいところです。
他にも、実際にペット用持ち出し袋に入れておくべき日用品の展示や、避難形態にはどんなものがあるかなど、具体的な情報が満載の展示です。お近くの方はぜひ行ってみてください。足を運ぶことができない方はSNSでご参加を。#leonimalbosai
本展の企画製作も手がけるleonimalの同行避難シミュレータの一部。ペットの体重や避難日数などを元に避難時に必要なペットフードや水、トイレシーツの量などを計算できる
関連するURL/媒体
http://www.setagaya-ldc.net/program/325/