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難民ボートの残骸でリュックを作ろう
オランダの学生が考案

2016.03.18 平澤 直子

ワークショップで作り方を教えるNagler Credit to Amos Chapple (RFE/RL)

昨年秋、ボートで海をわたる難民の映像を目にした人も多いのではないでしょうか? あれから半年ほどがたち、日本では難民に関するニュースを目にする機会も少なくなっていますが、現地では今も「欧州難民危機」が続いています。昨年1年間で100万人超の難民流入に揺れる欧州では、難民の移動ルート上にある国々が国境を封鎖したり、EU諸国が廃止されていた国境審査を再導入したりと難民の受け入れに制限を加えています。そのため、多くの難民がギリシャをはじめとした周辺各国の国境付近で足止めされており、ギリシャとマケドニアの国境では、寒く劣悪な環境に耐えかねた難民が強行突破をこころみて命を落としたというニュースも入ってきています。この状況を打破するためEUは、2月末時点で2万4000人もの滞留難民にあえぐギリシャに対し、7億ユーロ(約870億円)の緊急支援を計画したり、ギリシャに到着した難民をトルコに戻すことを合意したりと、事態の収拾に力を注いでいます。

その一方で、トルコに近いギリシャのレスボス島には今も、毎日多数の難民がやってきます。彼らは着の身着のままゴムボートに乗ってレスボス島にたどりつき、荷物も途中でなくしてしまっていることが少なくありません。そして彼らが上陸したあとには、彼らが乗ってきたゴムボートや身につけてきたライフジャケットが積み上げられたままになっています。

難民はすし詰め状態でゴムボートに乗ってくる Credit to Amos Chapple (RFE/RL)

海岸に投棄されたままのライフジャケット Credit to Amos Chapple (RFE/RL)

オランダ・アムステルダムでテキスタイルを学ぶ学生、Floor Naglerは1月、ボランティアをしに来ていたレスボス島で、難民が旅を続けるにはバッグが必要だと気づきました。Naglerは、海辺に捨てられていたゴムボートを20キロ分もアムステルダムに持って帰り、オランダ人アーティストのDidi Aaslundとともにリュックサックの試作を始めました。

2月29日、レスボス島に戻ってきたNaglerとAaslundは、1週間にわたり、難民向けにリュックサックづくりのワークショップを開きます。材料は、ゴムボートの生地とライフジャケットのベルト。作るのに必要な道具はリベットガンと穴開けペンチ、はさみにクリップ。電気も必要とせず、費用は3ドルもかかりません。

Credit to Radio Free Europe/Radio Liberty

13歳のイラク難民、Raida Matarは、英語はわかりませんが、見よう見まねでゴムボート生地に穴を開け、リュックサックを完成させました。「自分で作ったの。私たちも、こんな感じのボートに乗ってきたのよ」

できあがったリュックサックを背負って Credit to Amos Chapple (RFE/RL)

レスボス市長報道官、Marios Antriotisは、島に残されたボートやライフジャケットは約3万立方メートルにものぼると推定しています。島の東海岸、ミティリニ港ではボートの空気を抜く作業が見られますが、島の北側には依然、巨大なオレンジの「ライフジャケットの墓」が積み上がっているため、Antriotisは、このリュックサックプロジェクトを歓迎していると話しています。

前日にレスボスに着いたばかりの19歳のAmaniは、トルコから2時間かけて危険な船旅をしてきたため、「自分が殺されそうになったボートを自分が殺すのはいいアイディアだと思う」と語ります。一方、自分がコンピューターサイエンスを学んでいた大学がテロにあって逃げてきたというパキスタン人のShamshaid Slamatは、「バッグは必要。ただ、ギリシャが滞在許可証を出してくれないことにはバッグを持って行くところもないんだけどね」と皮肉ります。

Naglerは、このプロジェクトを"It Works"(※)と呼び、Slamatのような、足止めされている難民の時間つぶしにもなってほしいし、言葉の通じない難民とボランティアのコミュニケーションツールにもなってほしいと言います。NaglerとAaslundはレスボス島を離れる際には、その後も難民とボランティアがプロジェクトを続けられるように、ボートの生地と型紙、それに道具を残していくと言います。「彼らがヨーロッパの行きたい場所に行けますように。このリュックサックを持って」

※ "It Works"はボートやライフジャケットからバッグや財布を作って売り、収益を難民のために役立てることを目的としたギリシャの団体Oddyseaのプロジェクトの一部として実施されています。

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このニュースの地域

ギリシャ (ヨーロッパ/ロシア

平澤 直子