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2016.07.14 宮原 桃子
ホームレスW杯のポスターとフェアトレードボール ©Bala Sport
リオ五輪開幕に向けて沸き上がる今、もう一つの世界的なスポーツイベントがスコットランドで開催中です。「ホームレス・ワールドカップ(以下、ホームレスW杯)」、皆さん聞いたことはあるでしょうか? その名のとおり、世界各国のホームレスの人びとで結成されたサッカーチームによるワールドカップです。2003年に始まり14回目を迎える今大会は、スコットランドのグラスゴーで7月16日まで開催されています。世界52カ国から64チーム、512人のホームレスの選手が参加します。また、今大会では初めて、スコットランドに住む難民チームも参加します。
フェアトレードボールを持つスコットランドチームの旧メンバーと、大会を陰で支えるストリート・サッカー・スコットランドのCEO(写真右から2番目) ©Bala Sport
ホームレスの人びとへの支援というと、仕事探しや職業訓練、衣食住などのサポートが思い浮かびますが、この大会はサッカーを通じて、ホームレスの人びとが生きる希望ややりがい、自信、仲間とのコミュニケーションや信頼関係の大切さを見つけ出し、次なる人生に向けて自立できるようサポートします。大会事務局の調査によると、選手の94%がW杯は人生に良い影響を与えたと答え、83%は家族や友人との関係が改善したと答えています。
ホームレスW杯には、日本からもNPO法人ビッグイシュー基金が運営を支えるチーム「野武士ジャパン」が、過去3回出場しています。野武士ジャパンは、残念ながら今回のグラスゴー大会には出場しませんが、7月30日に東京・新豊洲で、ホームレスや被災地の若者などの参加による「ダイバーシティカップ」を開催するそうです。
また今回のホームレスW杯では、選手の人生だけでなく、試合を陰で支える人びとの人生を変える試みが。試合で使用するサッカーボールに、地元スコットランドのバラ・スポーツ社が手がけるフェアトレード認証のサッカーボールを採用したのです。このボールは、FIFAの求める基準に沿って作られたもので、サッカーの国際大会でフェアトレード認証ボールが使用されたのは、世界で初めてのことです。世界のサッカーボールの7割以上が、パキスタンのシアルコットという地域で生産されており、その多くが手縫いで作られています。その数は年間約4000万個にも上ります(W杯の年は約6000万個)。1996年に、パキスタンで7000人もの子供たちがサッカーボール製造に従事していると報道されました。これ以降、サッカーボール産業における児童労働への規制や監視が厳しくなされるようになりましたが、根本的な原因の一つは、親が不当な労働条件で働き、十分な賃金を得られないことです。こうした労働環境の改善や児童労働の問題を解決するために、サッカーボール産業でもフェアトレードが広がるようになりました。こちらの映像で紹介されているように、フェアトレードボールは生産者の人びとの暮らし・人生を大きく改善しています。
Playing Fair: The Story of Fairtrade Footballs from Fairtrade Schools on Vimeo.
パキスタンのフェアトレードボール生産者 ©Bala Sport
これまでオリンピックやFIFAワールドカップにおいても、フェアトレード認証ボールを使うよう働きかけがなされてきましたが、まだ実現には至っていません。選手や生産者の人びとの自立をサポートするホームレスW杯を皮切りに、こうした動きがこれから世界に広がるかもしれません。ちなみに、今大会で使われる325個のフェアトレード認証ボールは、大会終了後は各チームに寄付されるそうです。ホームレスW杯は、オンラインで視聴できますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
※日本では、国際協力NGO「わかちあいプロジェクト」が、自社製のフェアトレード認証ボールを販売しています。
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