Peace
2016.08.05 平澤 直子
お子さんたちは夏休み、いかがおすごしでしょうか。夏休みといえば、自由研究と読書感想文。今月のレコメンドでは、女子教育の権利を主張し続けたためにタリバンに撃たれたものの一命をとりとめ、若干17歳でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイに関する図書を集めてみました。マララのことを「タリバンに撃たれた少女」としては知っていても、「撃たれるまでにどんなことがあったのか」「当時のパキスタンはどんな状況だったのか」といった背景までは知らないという人がほとんどなのではないでしょうか。今回は絵本から大人向けの本までそろえましたので、ご自分やお子さんの年齢、興味、時間などに合わせ、ぴったりの一冊をぜひ手に取ってみてください。
1. マララとイクバル パキスタンのゆうかんな子どもたち(文:ジャネット・ウィンター 訳:道傳愛子 岩崎書店)
1冊の本を、片側から開くとマララの話、もう片側から開くとイクバル・マシーの話、という構成の絵本。イクバルは、もともとパキスタンの絨毯(じゅうたん)業界で債務児童労働(※1)をさせられていた子どもでしたが、10歳で自由の身になってから声を上げ、子どもながら労働問題について国際会議で演説をするなど活動をしていました。しかしある日...。絵も明るく読みやすいので4歳ぐらいから読めますが、イクバルが鎖でつながれている絵などもあるので、保護者の判断でお願いします。
2. マララの物語 わたしは学校で学びたい(文:レベッカ・L・ジョージ 訳:西田佳子 西村書店)
マララが育った環境、あの悲惨な銃撃事件、そして一命をとりとめ国連で演説をするまでを簡単に描いた絵本。今年のマララ・デー(※2)に出版されたばかりです。絵本といっても難しい言葉も多用されているので、小学校中〜高学年向けです。当時のパキスタンの状況や、銃撃事件が起こった背景なども詳しく書かれているので、時間をかけずにさっと読みたい大人にもおすすめです。
3. マララさんこんにちは 世界でいちばん勇敢な少女へ(文:ローズマリー・マカーニー 訳:西田佳子 西村書店)
マララが撃たれたことが世界中のニュースで伝えられると、マララが入院していたイギリスの病院には何千通もの手紙やプレゼントが届いたといいます。この本は、同じようにマララの行動に勇気をもらった世界中の女の子たちからの、マララへのメッセージを集めた写真絵本。マララは世界中の女の子の代表で、みんながマララを応援していること、そして女の子はみんなマララのように権利があることが書かれています。著者は世界の女子の権利を訴えた「Because I am a girlキャンペーン」で知られる、国際NGOプランのカナダの代表。写真絵本なので、3歳ぐらいから大人まで楽しめます。
4. ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える(文:石井光太 ポプラ社)
前半は、2013年の国連での演説を子ども向けに簡単に要約したもので、後半は、貧困問題を扱う作家である著者が、学校に行けない世界中の子どもたちの現状を書き、なぜ学校に行くべきかを説いた写真絵本。内容がルポルタージュ的なので、読後に考えることを求めるのであれば小学校高学年から、一緒に写真を見て世界を知ってほしいのなら4歳ぐらいからおすすめできる本です。
5. 武器より一冊の本をください 少女マララ・ユスフザイの祈り(文:ヴィヴィアナ・マッツァ 訳:横山千里 金の星社)
イタリアのジャーナリストが、マララが偽名で書いていたBBCのブログや数々のドキュメンタリー、各種記事などをまとめて物語にしたもの。2012年の銃撃事件の3年前、2009年からの、タリバン支配下での生活がどれだけ恐ろしいものだったかがわかる本です。とはいえ残酷な記述はほとんどないので、小学校高学年くらいからおすすめできます。大人なら1時間程度で読み終われる程度の読みやすい半フィクション本です。
6. マララ 教育のために立ち上がり、世界を変えた少女(文:マララ・ユスフザイ、パトリシア・マコーミック 訳:道傳愛子 岩崎書店)
マララが初めてメインで書いた手記。5よりも実感がこもっていて、日常で彼女がおかしいと感じたことがたくさん書かれています。教育を受けていない女性(彼女の住む地域ではほとんどがそうです)が、日本なら小学校で習うようなことも知らないがためにタリバンの言うことを真に受けてしまい、泣き出すシーンがとても印象的でした。人はこうやって洗脳されていくのか、教育を受けていないと、こんなにも洗脳されやすいのかと、教育の大切さを実感した本でした。2015年の高校生向け課題図書に選ばれた本ですが、字も大きめの児童書なので、小学校高学年でも充分に読めると思います。ただし、鞭打ち刑の記述などもあるので、小学生に読ませるかどうかは保護者の判断でお願いします。
7. わたしはマララ 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女(文:マララ・ユスフザイ、クリスティーナ・ラム 訳:金原瑞人、西田佳子 学研パブリッシング)
マララ初の手記。この本がもとになって6が出版されました。5や6が銃撃事件の背景に注力しているのに対し、7はそれ以前のこと―パキスタンの歴史、マララの父親が子どもだった時代のこと、当時の国際情勢、政治的なこと―がふんだんに盛り込まれています。また、日常生活の細かい部分の描写もあり、マララの暮らした土地の情景が浮かぶような本でもあります。字も小さくページ数も多く、読み応えのある本なので、時間のある大人におすすめです。
どの本も、マララが撃たれ、翌年16歳のときに国連でスピーチをするまでのことが書かれていますが、もちろんその後も彼女の活動は続いています。17歳でノーベル平和賞を受賞し、18歳の誕生日にはシリア難民のための女子校を開設しました(資金はマララ財団が提供)。19歳となった現在も、すべての子どもの教育を受ける権利を訴え、世界を飛び回っているようです。マララのように勇敢に立ち上がるとまではいかなくとも、世界にはこんな環境で生きている子どももいるのだということを、これらの本をとおしてたくさんの子ども(もちろん大人にも)に知ってもらえたら嬉しいです。
本の補足として、映画もおすすめです。
ドキュメンタリー「わたしはマララ」予告編
※1 債務児童労働...親の作った借金の返済のために子どもが労働させられること。劣悪な労働環境に置かれることが多い。
※2 マララ・デー...マララの勇気をたたえ、国連が制定した記念日。彼女の誕生日である7月12日。
関連するURL/媒体
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000010438.html