Peace
2017.04.29 宮原 桃子
「Social Book & Cafe ハチドリ舎」イメージ
私が初めて広島の平和記念資料館を訪れたのは、中学1年生の頃。 当時の恐怖と衝撃は今も忘れません。最近、 数十年ぶりに再訪しましたが、 大人になってさまざまな経験や知識を得た上で、 紛争の絶えない今だからこそ感じたことは、昔とはまた違い、 一言では語りつくせないものでした。
資料館には、 さまざまな国ぐにから幅広い世代の観光客が訪れていて、 それぞれ多くを感じ、 考えていることがひしひしと伝わってきました。出口近くには、 誰でも感想を書けるノートが何冊か置いてあり、 さまざまな言語で想いが綴(つづ)られていました。 これだけの事実を目の当たりにした時、 人びとは感じたことや考えを発信し、誰かとシェアしたくなるでし ょう。多様な国の人びとが集っているからこそ、 もっと語り合える場がほしいと感じた人は多いはずです。
広島市の平和記念資料館
人びとが気軽に平和について知り、学び、語り、つながることができる場所。今、そんな場としてソーシャルなブックカフェをつくりたいと、 一人の女性が動き出しています。安彦(あびこ)恵里香さんは、かつて国際NGOピースボートに勤め、転勤を機に広島へ移住し、それ以来10年以上にわたり平和活動を行っています。その原動力は、世界のさまざまな問題で苦しむ人たちがいることに対して、傍観者でいたくない、あきらめずにできることからやろう、という想いを持ち続けていることです。
人を巻き込む魅力とエネルギーに溢(あふ)れた安彦恵里香さん
2009年に核拡散防止条約を強化する「ヒロシマ・ ナガサキ議定書」への署名キャンペーン「Yes!キャンペーン」の事務局長を務め、2011年には広島・長崎から54人のアーテ ィストを巻き込んで、アートの視点から核兵器を捉えなおすアートブック「 NOW!」を発刊。 平和を考えるアートイベントや勉強会などを行う団体「PROJE CT NOW!」を立ち上げ、2013年からは原爆投下時刻に一斉に空を見上げるアートアクション「みあげる」を開催。2015年には、夏に広島・長崎で行われる100を超える平和イベントを検索できるウェブアプリ「Peace Week Hiroshima Nagasaki」をスタート。 さまざまなアプローチで、できるだけ多くの人が平和について考えられる場を生み出してきました。
6000冊を売り上げたアートブック「NOW!」
7-8月に数多く行われる広島・ 長崎の平和イベントを検索できるサイト「Peace Week Hiroshima」
この10年の活動を経て、 安彦さんが平和を実現するために一番大切だと思うことは、「思考停止しないこと」「一人ひとりが社会の主人公になり、 発信者になること」。そのためには、 単発のイベントを続けるのではなく、人びとがそこへ行けば、 平和や社会の課題について主体的に考えることができ、発信し、 誰かとつながって、 次のアクションが生まれるような場が必要だと感じたそうです。
安彦さんは今、平和記念公園から歩いて2分の場所に、「Social Book & Cafe ハチドリ舎」をオープンする準備を進めています。 このブックカフェでは、美味しいごはんやお茶をいただきながら、平和や社会的なテーマの本を自由に読め、 さまざまなイベントにも参加できます。 被爆者の方々と交流する会、多様なゲストを招いたトークショー、上映会、ワークショップなど、毎月10回程度開催される予定です 。7月23日のオープンに向け、現在クラウドファンディングで資金を集めながら、 外国人観光客も気軽に立ち寄れるよう、 通訳ボランティアを募集するなど奔走しています。
平和や戦争、環境などあらゆる社会的な課題は、 時としてあまりに大きな問題に見え、 自分ひとりではどうしようもないと感じることもあるかもしれませ ん。しかし、結局社会を変えられるのは、 この社会に生きる私たち一人ひとり。「 あなたの一歩がすごく大事」と語る安彦さんは、 このカフェで一人でも多くの人にきっかけを提供し、 人と人とをつなげたいと考えています。 なんとなく世界や社会のできごとが気になってはいるけれど、 何ができるのかわからずモヤモヤしている人も、 誰かの話を聞いてみたい人も、語り合いたい人も、「Social Book & Cafe ハチドリ舎」へ行けば、 小さくて大きな一歩が生まれるかもしれません。
関連するURL/媒体
https://camp-fire.jp/ projects/view/20296