Politics
2014.10.23 岩井 光子
食べる政治。ドキッとするタイトルです。「食と政治」ではなく、「食べる政治」。TPP(環太平洋パートナーシップ)や捕鯨など、食を巡る政治課題を文字ベースで考えるのでなく、食べるという実体験を通してより身近に感じてもらおうと立ち上がった新しいECサイトです。東京工業大学大学院生として「ネット×政治参加」について研究する増沢諒さんを中心に、20代の若いスタッフが集まり、今年6月から試験的にサイトを稼働。今月17日から毎月1回の食材販売事業を正式にスタートさせました。
定期購読者には2980円(送料別)で、毎月特集にちなんだ食材が届けられます。初号となる11月号はジビエ。全国の中山間地区で深刻な農業被害を起こしているシカの肉を使ったシチュー、カレー、ハンバーグの3点セットです。商品には食材の背景や政治課題を考えるためのリポート冊子がつきます。「一人でおいしい食事を味わってもいいし、友だちとワイワイおしゃべりしながら食べてもらってもいい。楽しい食事の時間が政治についても考えるきっかけになれば」と代表の増沢さんは話します。
増沢さんは大学時代、地元の長野で国会議員の選挙ボランティアを経験し、「政治が多くの人の生活に影響を与えること」「みんな表立っては発言しないけれど、それぞれ考えや意見があって、きっかけさえあれば話してくれること」を実感したと言います。卒業後、ネットと選挙をリンクさせる活動により力を入れるようになった増沢さんは、2013年のネット選挙解禁の原動力ともなった「ONE VOICE CAMPAIGN」や、SNSを通して投票を呼びかけ合う「FIRST STEP」といったウェブサービスの企画と開発に携わってきました。先日の都知事選では家入一真候補の陣営で活動し、Twitter経由で集まった約3万件の意見を吸い上げてマニフェストを作成するという日本初の試みにも挑戦しています。
こうした経験を経て増沢さんが率直に感じたのは、「ウェブのムーブメントは、盛り上がりはとても大きいけれど、体験をともなわないために一時的なブームで終わってしまう」というもどかしさでした。そこで、今度は継続的に政治について考えてもらうきっかけを作り出すために注目したのが「食」。日本人は食へのこだわりがとても強いこと、また、知り合いの政治家と話す中でも地元の食材をPRする機会がなかなかないと幾度となく聞いたこと、そして、食は誰にとっても生活のベースであること。食と政治は一見かけ離れているように見えて、実は非常に親和性が高いのではないか、と思うようになったと言います。
食べる政治の活動目的は、最終的には若い世代の政治参画。2012年末、衆議院議員総選挙での20代の投票率は全世代の最下位の37.89%まで落ち込みましたが、このデータについて増沢さんは次のように指摘します。「皮肉なことに社会貢献したい人は20代が80%とダントツに高い。人の役に立ちたいという彼らの気持ちの受け皿が足りないのかもしれない。最近僕はそう思い始めています」。食という誰にとっても身近な、シェアされやすいテーマであれば、社会貢献したい若い世代の気持ちと政治への参画意識を少しずつリンクさせていくことは可能なのかもしれない―。そんな期待を胸に、来月以降も「若者の農業ブーム」、防災をテーマにした「おいしい非常食」、「震災復興」、「TPP」、来年4月の統一地方選に絡めた特集などを次々に打ち出していく予定です。
今月26日までは初号のキャンペーンを実施中で食べる政治のFacebookに「いいね!」をした人の中から抽選で数人に11月号のジビエセットが当たるそうです。
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