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色が省エネ素材に?
実験の失敗から偶然生まれた新しい「青」の可能性

2016.07.08 平澤 直子

発見者のサブラマニアン教授  ©Courtesy of Oregon State University

先月29日、世界一新しい青色顔料「YInMnブルー」が今年中に発売されると米ハフィントン・ポストが報じました。1700年代初頭にプルシアンブルーが発見されて以来の新しい無機青色顔料です。

新しい青「YInMnブルー」 ©Courtesy of Oregon State University

そもそもこの「YInMnブルー」は、まったくの偶然から生まれました。2009年、米オレゴン州立大学でコンピューターのハードディスクに使う新しい物質を探索していた大学院生は、炉の扉を開けて非常に驚きました。黒い酸化マンガンと他の化合物を混ぜて焼いたはずのものが、鮮やかな青い粉に変化していたからです。

この実験を指揮していた同大学のマス・サブラマニアン教授とそのチームが調べたところ、原料であるYttrium(イットリウム)、Indium(インジウム)、Manganese(マンガン)の元素記号を取って「YInMnブルー」と名付けられたこの物質は、非常に珍しい三方両錐構造をしていることがわかりました。この構造のために、内包されたマンガンイオンが緑と赤の光を吸収し、吸収されない青のみが非常に鮮やかに現れていること、また、この構造により安定性が高いため、耐久性に優れ、水にも油にも強いことがわかりました。

「太古の昔、エジプト人が最初の青色顔料を発見したときからずっと、顔料業界は安全性、毒性、耐久性の問題に悩まされてきた」というサブラマニアン教授の言葉どおり、顔料業界は、有機物質由来の顔料は色落ちしやすく、コバルトブルーやプルシアンブルーは毒性があるとされ、ウルトラマリンはその原料が鉱物であるために製造に手間とコストがかかる、といった問題と闘い続けてきました。そこに登場した新しい、耐久性に優れ、毒性原料を含まず、そして製造が簡単なYInMnブルーは、顔料業界にとって世紀の大発見といっても過言ではないのではないでしょうか。

YInMnブルーの結晶構造。この珍しい三方両錐配位が美しい青色を作っている ©Courtesy of Oregon State University

実際、この顔料に関する論文が発表されてからというもの、教授は、画家、美術修復家、塗料メーカー、大手化学メーカーのメルク社、省エネルギー関連の会社、アメリカ海軍など、方々からオファーを受け、そのうちのいくつかとは協働にまで発展したといいます。しかし、画家や塗料メーカー、化学メーカーはともかくとして、なぜ、省エネ関連の会社やアメリカ海軍が興味を示したのでしょうか。それは、耐久性や安全性に加え、YInMnブルーは、赤外線の40%を反射するという重要な特性を持っているからです。YInMnブルーを屋根など家の塗装に使用すれば、赤外線を跳ね返すために家に熱が届かず、エアコンなしでも家を涼しく保つことができます。同じように、アメリカ海軍は、この熱を反射する素材で船をコーティングすれば、赤外線カメラに映りにくく敵に感知されにくいのではないかと考えたのです。実験室で偶然生まれたきれいな色素がこんなにも大きな可能性を持っているとは、誰が考えたでしょうか。「この顔料について調べれば調べるほど興味深い事実が出てくる」と教授も言います。

オレゴン州立大学からライセンスを受けてYInMnブルーの販売を予定しているShepherd Color Companyは、日本を含む世界各国に支社を持ち、すでにほかの遮熱素材の販売をしています。世界中の屋根が青く染まり、同時に省エネも進む、そんな未来もそう遠くないのかもしれません。



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オレゴン、USA (南北アメリカ

平澤 直子