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「自分のため」が「社会のため」に

2010.11.11 中川 真琴

実験の対象となったミナミギンポ(Plagiotremus rhinorhynchos)。鮮やかでコミカルな表情を持つ魚のひとつです。写真:Michael Barrow

サンゴ礁で活発に泳いでいる小さな魚、ギンポ。このギンポには、他の魚の皮膚などをかじりとることでえさを得るものがいます。そしてかじられた魚の中には、追いかけるといった罰を与えるものもいます。スイス、ヌーシャテル大学のアンドレア・ブシャリー教授らが11月4日にCurrent Biologyオンライン版で発表した研究によれば、罰を受けたギンポは罰を与えた魚を覚えており、次からは別の個体を狙うようになるそうです。さらには、ギンポは罰を与えた魚と同じ種類の魚(その個体が罰を与えたものでない場合でも)も避けるようになります。すなわち、ある個体が自分の身を守るために行った「罰」という行為が、仲間全体の利益になっているということです。

動物行動学では、個体は自分の持つ遺伝子を残すために様々な行動をとっており、「種全体の生存」のために協力して生きているのではないとされています。今回の研究結果は、「仲間のため」とも見られた行動が、実は自分の利益を守る行動の副産物だったことを明らかにしています。

自己利益に基づいた行動が社会全体の利益になっているケースは、人間社会にも見られるとのこと。私たちの社会をひも解くヒントが動物の世界でたくさん見つかりそうです。



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中川 真琴