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2016.08.19 ささ とも
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Northwest Power and Conservation Council
夏、涼を求めて水族館を訪れると、迎えてくれるのがゆうゆうと泳ぐサメやマンタ、水中を右に左に滑らかに進むアザラシやペンギンたち。でも、自然の中では、サメとマンタは仲が良いのかな、アザラシは海中でもいつも忙しく動いているのかな、とふと疑問に感じることがあります。
そんな疑問に答えてくれる最新技術が「バイオロギング」。野生動物の体に直接記録計を取り付け、再び捕獲して回収します。捕獲が難しい動物では、時間になると記録計が自動的に切り離され、それを探し出して回収することもあります。「バイオロギング」は生物を意味する「bio(バイオ)」と記録することを意味する「logging(ロギング)」を組み合わせた和製英語で、今では世界的に用いられるようになりました。バイオロギングの草分けとなる研究は1960年代から始まり、記録計がアナログ式だった1980年代まではペンギンやアザラシなど対象となる動物は限られていました。1990年代にデジタル式が開発されると、小型化が進み、魚類や鳥類など対象が拡大しました。
では、バイオロギングでどんなことが観測できるのでしょうか。例えば、クジラなどの肺で呼吸する海洋動物が潜る深さや時間、浮力の調節、マグロやウミガメの泳ぐ速さ、アザラシの子育てやペンギンの群れのなどの社会的行動、アホウドリなど渡りをする鳥やサメ・クジラなどの回遊する動物の地球規模の移動経路などさまざまです。使用する記録計は、深度や水温を記録するシンプルな機器から、GPSや発信機を人工衛星と組み合わせたハイテク機器まで用途によって使い分けされ、小型カメラを据え付ければ画像を記録することもできます。
マグロの泳ぐ速度が、実際には時速7~8キロほどの低速だということもバイオロギングにより突き止められた Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Froschmann
バイオロギングによって、これまで「常識」と考えられていた動物の行動の意外な事実が明らかになってきました。有名な話がマグロの遊泳速度。私の手元にある子ども向けの図鑑にはクロマグロは時速約80キロで泳ぐとあります。でも、バイオロギングで実際に測定した平均時速はなんと約7~8キロでした。それでも、これ以上速く泳ぐ魚はいないので、やはりマグロは最速の魚の仲間に入るそうです。
もう一つ紹介したいのが、ウミガメと海洋ゴミの少しほっとする話です。以前、地球ニュースでレジ袋などのプラスチックゴミをのみ込んでオサガメが死んでしまう問題を取り上げたことがあります。バイオロギングによる調査で、ゴミの誤飲には死にいたるほどの悪影響はないかもしれないことがわかりました。アカウミガメとアオウミガメの採餌(さいじ)行動を撮影したところ、アカウミガメよりアオウミガメの方がゴミを食べる場面が多く映っていました。この行動の違いは餌(えさ)に関係があるようです。アカウミガメはクラゲやカニなど動く動物を食べているため、ゴミをじっと観察し、動かなければやり過ごします。でも、アオウミガメの餌は藻類のため、海に漂うレジ袋を見間違えてのみ込んでしまうようです。しかし、調査ではプラスチックゴミをのみ込んで消化管に詰まっていたアオウミガメは見つかりませんでした。大抵はゴミが糞となって出てきます。というのも、本来、ウミガメ類は、海に浮かぶ鳥の羽や小石、木片なども捕り、消化できないものを排せつしているので、ゴミを食べたからといって直接死につながるものではないということです。しかし、溶け出したプラスチックの有害物質による影響は測り知れません。
海洋ゴミをのみ込む回数はアカウミガメよりアオウミガメの方が多かった Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Damien du Toit
さて、水族館ではずっと泳ぎ回っているアザラシですが、海の中では餌を探すためにだけ潜水しているわけではないようです。ゾウアザラシは潜水するとすぐに足ひれの動きを止め、腹を上にして沈んでいく様子が観測されています。潜水しながら休息しているのだそうです。野生動物にはまだまだ知られていないことがいっぱい。バイオロギングの可能性にますます期待が高まります。
参考図書:『野生動物は何を見ているのか バイオロギング奮闘記』(佐藤克文ほか著 丸善出版 2015.12.15)、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(渡辺祐基著 河出書房新社 2014.4.30)
関連するURL/媒体
http://bre.soc.i.kyoto-u.ac.jp/bls/