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Water

水リスクをかかえる企業は投資が受けられない?

2013.04.25 橋本 淳司

2011年のインドシナ洪水で水没したタイの日系企業

企業は今後、「水リスク」という馴染みのない言葉に頭を悩まされそうです。

企業の水リスクは主に4つあります。操業リスク、財務リスク、法的リスク、評判リスクです。いずれも気候変動、人口増加、無秩序な水利用などが背景にあります。

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操業リスクは、洪水や旱魃によって事業が中断されることです。

たとえば、中国では黄河からの取水量が増えたために1年の半分以上は河口まで水が流れなくなり、周辺の工場は操業停止となりました。河北省では地下水の汲み上げ過ぎから地盤沈下の被害を受けた企業も多いのです。

また、2011年のタイを中心としたインドシナの大洪水は、50年に1度の規模といわれ、日系企業の工場も甚大な被害を受けました。企業への損害保険支払い金額は9000億円(再保険分も含む)と、東日本大震災の企業向け地震保険支払額6000億円を上回っています。

財務リスクは、水不足から工業用水調達コストが増加することです。中国は北部の水不足を緩和するため南部の水を水路で運ぶ「南水北調」を進めていますが、輸送と水質浄化のコストが加算されるため、北京の水道料金は3、4倍に上がるとされています。

法的リスクは、水不足や環境破壊を防止するために新たな課税や規制が導入されることです。工業用水が十分に得られなくなったり、排水基準が高まったりします。

評判リスクとは、企業が無秩序な水利用を行った結果、周辺の環境に悪影響を与えたり、住民の水利用に悪影響を与えることで悪い評判が流れ、それが株式の下落や商品の不買に結びつくというものです。

こうしたことを背景に、欧米を中心に、企業に対しサプライチェーンやバリューチェーン(価値のつながり)も含めた水リスクの評価・管理・対策と、その情報開示を求める動きが活発になっているのですが、とりわけ投資家が水に対する危機認識を高めており、「水リスク」をかかえる企業は今後投資を受けにくくなくなると考えられます。

たとえば、米国で企業に水に関する情報開示を求める株主決議が増加したり、ノルウェー中央銀行やオランダの資産運用会社ロベコといった機関投資家が水に関する評価を投資ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)に組み入れるなどの動きが見られ、この流れは世界的なものになりそうです。

企業が「水リスク」に関心を寄せる背景には、機関投資家の連携で始まった英国のNGOカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)の影響が大きいでしょう。

CDPは2010年から、新たにウォーター・ディスクロージャー・プロジェクト(WDP)を開始しました。機関投資家に代わって、世界及び各地域の主要企業(2013年時点で629社)に水リスクの認識やパフォーマンスに関する質問書を送付し、その回答結果を開示します。

CDPは2000年代に、気候変動リスクに関して、同様の手法で多くの企業に情報開示を促す重要な役割を演じ、現在では、気候変動によるビジネスリスクおよび機会、パフォーマンス(温室効果ガス排出量など)の情報が、アニュアルレポートや企業会計報告で非財務情報として投資家向けに開示される流れになっています。そのため水リスクの情報開示も同じような流れになると予想されます。

企業も水情報の開示を進めています。コカ・コーラ・エンタープライズ(本社・米アトランタ)は、製品1リットルつくる際の水使用量が次第に減っていることをアピールしています。2007年には1.67リットルでしたが、2011年には1.43リットルになり、2020年に1.2リットルにしようとしています。なぜ水使用量の節減と情報開示を行うのかといえば、世界的な水不足から、水を効率的に使用しないと持続可能な操業ができなくなると考えているからです。企業努力を開示することで、投資家の懸念を払拭し、投資を得やすくするねらいもあります。

日本は水豊かというイメージがあり、この問題には関係ないと考える人も多いでしょう。

ですが、グローバル化が進展した現在、日本企業もサプライチェーン、バリューチェーンのなかに、必ず水リスクを抱えています。

環境分野における保証業務を行うKPMGあずさサステナビリティと英国の環境調査会社であるトゥルーコストが日経平均採用銘柄225社の操業時およびサプライヤーにおける水の消費量に関するデータを分析したところ、日経225企業の、操業における水の平均使用量は年間約190億トンでしたが、川上のサプライヤーは年間約600億トンの水を使用していました。

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つまり、サプライチェーン全体での水使用を考えると、75%以上はサプライヤーでの水使用ということになります。サプライヤーが水不足などから、操業できなくなったり、供給される部材価格が上がるというリスクを考える必要があるでしょう。

今後企業は取水、水の消費量、排水に関するデータを監視することを通じ、自社の操業やサプライヤーが依存する水資源に対するリスクを把握する必要があります。水の希少性を反映した価格を水消費データに適用し、財務指標と比較することにより、水リスクを推計することができます。水管理を強化し、供給の確保と原材料コストを安定させることが可能となるため、今後事業を中長期的に継続するうえでの重要な戦略となりうるでしょう。

場合によっては、生産拠点を比較的水資源の豊富な国内に回帰させるという選択肢もあります。その場合、持続可能な企業運営を目指すなら、水情報の開示と、積極的な水資源保全を行うことが重要になります。



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