Water
2014.03.20 岩井 光子
3月22日は世界水の日。世界では約7億8000万人が安全な水にアクセスできず、日々約4400人もの子どもたちが汚染された水に関連した病気で亡くなっていると言われています。こうした世界の深刻な水問題を伝えようとアメリカの非営利団体Thirst Projectは今年の水の日に向け、「汚れた水の入ったペットボトルを持ち歩こう!」というユニークなキャンペーンdirty little secretを展開しています。
dirty little secretは濁った茶色の水を入れたペットボトルを学校や外出先に持ち歩き、中身に関心を示す人がいれば、その人に世界の水問題の深刻さをアピールしていることを説明するというもの。水の日当日にはそれぞれが沈黙の時間を作り、安全な水にアクセスできない7億8000万人の人たちの声に耳を傾けてみようというアクションも予定しています。キャンペーンプロモーションにはディズニーチャンネルでおなじみの人気女優ベラ・ソーンさんが登場、10代、20代の若者たちの関心を広く集めることに成功しています。
キャンペーンを企画したThirst projectの代表は、約6年前の設立時にはまだ19歳の学生だったセス・マックスウェルさん。水問題に目覚めたきっかけはアフリカの長期取材から戻った女性フォトジャーナリストとの出会いだったと言います。彼女が撮った写真に写っていたのは池や沼からチョコレートミルクのような色をした水を飲む子どもたち―。マックスウェルさんは大きな衝撃を受けます。「当時の僕は水問題の存在にすら気づいていなかった。でも彼女から汚れた水を飲んで亡くなってしまう子どもたちの話を聞いてものすごくショックを受けた。それからは僕に何ができるだろう、そればかり考えた」
世界中に水問題を考える非営利団体はたくさんありますが、Thirst Projectの特徴は学生を中心とした若い世代が共感を示していること。マックスウェルさんは発足直後から全米の中学・高校や大学で世界の水問題について話すスクールツアーを実施しています。これまでに訪れた学校はおよそ320校。マックスウェルさんは全米を旅しながら確かな手応えを感じたと言います。「始めの1カ月で1万2000ドル(約120万円)を超える寄付が集まるなんて想像もしていなかった。みんな応援してくれたし、反応が早い。大人は話を聞いてくれても行動してくれないこともあるけれど、学生たちは誰かが傷ついていることがわかれば、すぐアクションに移してくれる。それには本当に驚いた」
今までにdirty little secretのようなプロジェクトを829本も実施。訪れた学校に生まれた支援クラブのメンバーは30万人を超え、約800万ドル(約8億1000万円)の寄付が集まりました。そのお金でアフリカ、アジアなどの11カ国で安全な水へのアクセス環境を整備することができたのです。「安全な水へのアクセスを確保することは衛生面の問題解決だけに留まらない。それまで8時間近く費やして水をくみにいっていた時間が空く。そうすると子どもたちは学校に行けるし、女性たちは仕事ができるようになる。地域全体へのメリットはとても大きい」、マックスウェルさんはそう説明します。今後の目標はHIV/AIDS有病率がアフリカで最も高いスワジランド全体で安全な水へのアクセス環境を100%整えること。その熱意と実績が高い評価を受け、このほど米経済誌フォーブスが選ぶ30歳以下の社会起業家30人にも選ばれました。
熱意を持って地道に伝えていくことで、学生たちの潜在的な力を引き出すことに成功したThirst project。水問題に対してアクションを起こす若い世代の集まりとしては全米最大、世界でも最大級でしょう。学生たちが自らの意思で世界をより良い方向に動かしていく、そんな物語が夢でないことを教えてくれる、すばらしい活動だと思うのです。
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