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Water

地下水の保全と涵養をめざす初の指針「安曇野ルール」

2012.02.29 橋本 淳司

安曇野のわさび田 photo by Hashimoto Jyunji

国や各地の自治体で、地下水の利用と保全のルールづくりがすすめられています。これまで地下水は土地所有者のものとされ、土地を取得すれば、自由にくみ上げることができました。また、地下水の利用に関する法律はありませんでした。

しかしながら、世界的な水不足、災害対策などを背景に、地下水が注目されるようになり、利用量が増加したことから、無秩序な利用を懸念する声が高まってきました。

国会では、「地下水の利用の規制に関する緊急措置法案」「水循環基本法案」が議論され、地下水を公共の資産と位置づけ、秩序ある利用を求める動きが出ています。

長野県安曇野市では数年前から、湧水の水位が下がり、名産のわさびが枯れ、栽培できないという声が上がるようになりました。安曇野の湧水や地下水は、養魚・農業・ワサビ栽培、生活用水、工業用水などに利用されています。地下水の減少が指摘されるものの、現在は地下水利用に関する届け出や規制もなく、保全や涵養(かんよう=表層水が地層に浸透し、地下水となること)に対する具体的な取り組みもなされてきませんでした。

2011年7月、関係者によって地下水保全対策研究委員会(座長:藤縄克之信州大教授・地下水学)が発足し、地下水の保全・涵養・適正利用についての検討をスタートしました。同委員会の報告によると、市の地下水は年間600万トン(東京ドーム5杯分)ずつ減少していることがわかりました。

今年2月23日、同委員会は中間報告書をとりまとめ、宮沢宗弘市長に提出しました。報告は、地下水涵養の具体的方法、地下水を利用する際の料金負担方法の2つの柱からなります。地下水涵養の有効な方法としては、転作田や休耕田の活用、冬水田んぼ、雨水浸透施設の徹底などが上げられました。

転作田の活用とは、小麦などの転作作物の収穫後に、畑に一時的に水を入れ、地下水を涵養させるというものです。除草や連作障害の対策になるため農家のメリットは大きく、小麦収穫後の6月頃であれば、水稲の中干し期間に当たるため、水稲の水不足は生じません。

冬水田んぼは、稲刈り後の田に再び水を入れ、春まで維持する伝統農法です。田んぼにすむ多種多様な生物が土を肥沃にしてくれるため、化学肥料や農薬を抑えたコメ作りができます。ただ、農閑期の冬場は通常、農業用水路にはわずかな水量しかありません。田に水を張るためには、新たに国や県が管理する河川から、河川法に基づく水利権を獲得する必要があるため、冬水田んぼの有効性を周知し、理解を求めていく必要があります。

地下水を利用する際の料金負担方法としては、「継続的な方法で」「広く薄く」「1つの方程式で負担」することが確認されています。方程式の要素については、今後も議論が続けられますが、「地下水の単価」×「地下水利用量(取水量−涵養量)」×「負担能力に関する係数(資本金の多寡と外国資本の割合)」×「地下水影響度に関する係数(深いところからくみ上げた方が影響が大きい)」によって各自の支払額が算出されます。

水は地産地消すべきという考えから、ペットボトル水など、「取水した地下水を市外へ持ち出すことに関する係数」については、「酒、野菜などの生産に使用される地下水量の測定は困難」、「地場産業の振興を抑制する」、「特定の業種だけが不利益を被るようなルールでは実施がむずかしい」、「この係数をあえていれなくても、それ以外の方程式の要素で補える」などの声があり、事務局預かりとして対応を検討することになりました。

最終的な指針策定は9月になりますが、地下水涵養の具体的方法、料金負担方法ともに、ここまで具体的なものは全国的にも珍しく、今後「安曇野ルール」を参考にする自治体は増えるでしょう。



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橋本 淳司