岐阜県の南東部に位置する中津川市。山々に囲まれたのどかな印象ですが、ここはかつて日本で初めて行われた伝説の野外フェス「全日本フォークジャンボリー」開催の地でした。そんな中津川で、今年4年目を迎えた野外フェスがあることをご存知でしょうか。「中津川THE SOLAR BUDOKAN」。動員数は今年25,000人に達しました。ここでは、太陽光発電ですべての電力をまかなうことを目標にしています。この試みは、世界的に見ても前例がなく、試行錯誤を重ねながら毎年進化を続けています。日本が今抱える「エネルギー問題」に対して私たちに何ができるのか。その問いに対して、この野外フェスはたくさんのことを教えてくれました。今回は、発起人であるシアターブルックの佐藤タイジさん、舞台裏を支えるRA -energy design-の藤田晃司さん・村上智章さん、フェスを盛り上げるSmile is Energy! プロジェクトの山田秀人さん・有高唯之さん、そして出演アーティストの東田トモヒロさんを取材しました。
(タイトル写真提供:THE SOLAR BUDOKAN)
(Text by Miwako Sasao)
目次へ移動 エネルギーを考えるきっかけになった東日本大震災
「ロックバンドとして、武道館でライブをやらずに死ねない」
東日本大震災が起きた時は、まさにシアターブルックが武道館でライブをしようと準備を進めている真っ最中でした。
震災直後から、LIVE FOR NIPPONという復興イベントを立ち上げ、支援物資を被災地へ届ける活動をしていた佐藤タイジさん。その中で感じていた日本全体に漂う自粛ムード。3.11で世界が一瞬にして変わってしまった。自分の夢である武道館の公演をするにも、従来型のままでやってもしょうがない。自分のためにも、みんなのためにも何か新しい方法はないだろうか・・・と考えはじめてすぐに「電気を全部ソーラーでやればいいんだ!」というアイデアを思いつきます。それがTHE SOLAR BUDOKANの始まりでした。
このシンプルで画期的なアイデアも、最初は「絶対に無理!」と言われることがほとんどだったそうです。それもそのはず。200人ぐらいの小さなイベントを太陽光で運営することはあっても、1万人以上を収容する武道館の電力をすべて太陽光でまかなった前例はこれまで一度もないのだから、当然の反応でした。しかし、2012年12月、佐藤タイジさんたちは見事にそれを実現させました。
趣旨に賛同してくれる協賛企業の募集から、蓄電池やソーラーパネルの設置に配線......。何もかもが初めての試みで「裏では各社仕様の違う蓄電池が届いて、用意したケーブルが合わないなど、現場は大変だったみたい」と笑って話す佐藤タイジさん。それでも、新しいことを一歩先に進めている感覚や未来への期待感、スタッフの熱気みたいなものが確実に現場にあったのでしょう。初めての武道館公演を無事に太陽光発電だけで成し遂げた時「これで終わった。じゃなくて、これで始まった」という感覚をステージ上で味わいます。
そして武道館の打ち上げをしている時から、すでに次の計画の話が飛び交います。その時大きな後押しをした企業が1社ありました。初年度から「ぜひ協力したい!とホームページの問い合わせフォームに熱心なメッセージを送り、現在の中津川においてメインバッテリーシステム「enenova蓄電池」を用意している中央物産という会社でした。
目次へ移動 「中津川」という土地に導かれて
翌年の2013年、武道館から野外フェスへと会場を移し、「中津川THE SOLAR BUDOKAN」が生まれました。日本の野外フェス発祥の地であり、核兵器廃絶宣言都市でもある中津川。その土壌があるせいか、地元の人の理解も深く、とても協力的だと言います。
「やっぱり地元の人にしてみたらフォークジャンボリーはすごく誇りで、大事な歴史なんだろうなと毎年思います。たまたま中央物産の本社が中津川で、そこでやろうという話になったけど、きっと何かこの土地が持っている特殊な役割があるんでしょうね」
そうして回を重ね、2016年9月10日・11日に4年目を迎えた「中津川THE SOLAR BUDOKAN」。初日はまさにこのフェスのため! と言わんばかりの晴天。太陽の力強いパワーをソーラーパネルで電気に変え、各ステージから気持ちのいい音楽が聞こえてきます。小さな子どもがお父さんとハンモックで遊んだり、ローラー滑り台で笑い転げたりしている姿が目に飛び込んできて、親子で参加している家族がとても多いことに気づきます。それだけではありません。他のフェスではあまり見かけない40代、50代の年配の方たちも多く参加しているのです。
「幅広い年齢層のお客さんに来てもらえるよう、意識的に考えて人選をしてます。今年は八代亜紀さんを呼ぼう、とか。やっぱりいろんな世代がいる方が絶対面白いんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんは若い子からエネルギーをもらえるし、逆に若い子はおじいちゃん、おばあちゃんから学ぶところっておおいにあるわけだし。結局いろんな問題って、ジェネレーションの違いなだけやん、というのがけっこうある。だから、各世代がぐしゃっと一緒になって遊べる場になったらいいよね」
そう話す佐藤タイジさんの心境の裏には、フォークジャンボリーで熱狂した世代へ、今度は「中津川THE SOLAR BUDOKAN」を一緒に楽しんでほしい、という思いが感じられます。一方で子どもたちには、保護者同伴であれば、小学生以下2名までは入場無料にして、フェスへの参加のハードルをできるだけ下げるようにしています。
「ここ2、3年はワークショップも充実してきました。小学校に出張授業に行ったりもしています。ソーラーパネルを子どもたちと一緒に作ってギターを鳴らしたり、みんなで演奏したり。やっぱり教育は時間がかかるから、子どもたちにちょっとずつ種を渡していかないとあかんなと思って。でも逆に子どもたちから教わることもたくさんあって。いつも遊んでいた山がいつの間にかソーラーパネルが並べられて全然遊べなくなっちゃったと、ある子が言ったんです。それは子どもにとったらショックで、イメージとしては決していいものではないわけ。その時に再生可能エネルギーってのは、いわゆる善だけではないなと。震災から5年経って、新しい感覚でした。だから、メガソーラーを作る時も、必ず犠牲になっているものもあるんだ、ということをちゃんと考えながら展開していかないとダメだなと思いました」
目次へ移動 笑顔をエネルギーに変える
2013年の「中津川THE SOLAR BUDOKAN」から、会場で参加者の笑顔を撮り続けている人たちがいます。常連さんの間では有名な「Smile is Energy! プロジェクト」です。
「太陽の下、最高の音楽の中、この出来事をみんなのスマイルで広げ再生可能エネルギーの可能性を考えるひとつのチカラに。」というSmile Is Energy!のコンセプトに賛同した参加者の写真を、Smile Is Energy!のメッセージカラー(黄から橙のグラデーション)に統一し、「笑顔は、持続可能か。」というメッセージと共にWEBサイトで公開しているアートプロジェクト。笑顔が続いていく社会を願い、山田秀人さん(コミュニケーションデザイナー)有高唯之さん(写真家)、SPREAD(デザイナー)の三者で立ち上げました。
元々、岐阜出身である山田秀人さんが会場のみんなの笑顔が何かの力に変えられえないだろうか、という発想で始まったこのプロジェクト。
「震災以降、僕も電気をどう手に入れて使うのか、自分なりに調べたり勉強したりしていました。自分も子どもが生まれたし、やっぱり再生可能エネルギーに変わっていかないと気持ちよくないなと思って、再生可能エネルギーの可能性を考えるひとつのきっかけになればと始めたのがこのプロジェクト。これをやり始めてから思うのが、誰一人として嫌な顔をする人がいないし、笑顔ってすごいチカラを持ってるってこと。写真を撮られた側もそうだし、サイトを見てくれた人もそう。原発反対!と拳をあげるより、笑顔が続くことを考えようよ、って言っている方が自然だし、その方が気持ちも長く続くと思うんだよね」
会場で生まれる自然な笑顔を撮らせてもらって、本人の賛同のもとウェブサイトから発信しています。カメラ目線の笑顔ではなく、太陽光発電によるフェスという出来事を楽しんでいる様子を撮らせてもらうことで、撮られた人も、自分の自然な笑顔に出会うことができます。そうすることでこのプロジェクトとの関わりが強くなり、撮影された人がまた誰かに伝えて、この出来事、再生可能エネルギーの可能性を伝えることにつながり、さらに大きな輪が広がっているそうです。
「写真を撮って声をかけると意外と知っている人がいて『スマイルエナジーですか!?やったー!』と喜んでくれる。自分たちも、ますます楽しくなってきています」と話すのはカメラマンの有高唯之さん。
実際に、彼らが会場で写真を撮る姿を偶然見かけました。声をかけられた人は若い女の子からいい年のおじさんまで、みんなとても嬉しそうに笑っていました。知らないところで自分の笑顔を見つけてくれる人がいたら、きっとそれだけで嬉しいに違いありません。「Smile is Energy! プロジェクト」は、笑顔の持つパワーを改めて教えてくれました。
目次へ移動
電気があるのは当たり前?
「コンサートの運営に関わる電力のすべてを太陽光発電でまかなう」と口で言うのは簡単ですが、実際にはどんなシステムで動かしているのでしょうか。
会場には全部で517枚の太陽光パネルが設置されていて、その総容量は約445Kw。ただし、会期中の天気によって発電量は変わってきます。そこで重要になってくるのが、蓄電池の存在です。事前に太陽光でフル充電した蓄電池を会場に持ち込み、ライブの電源を支えます。蓄電エネルギーが足りないステージはバイオディーゼル。建物のなかや出店エリアなどは、グリーン電力証書を通じて太陽光発電でまかないます。
発電量が天候に左右されてしまうのが、太陽光発電の大きな弱点です。しかし、もし天候に問題があったら、ソーラーパネルと蓄電池だけで運営することはできるのでしょうか? この疑問に会場のエネルギーシステムを管理・統括しているRA -energy design-の村上智章さんが答えてくれました。
「今敷いているパネルの枚数だと正直足りないです。スピーカーを鳴らすアンプが電気をたくさん使うと思う方が多いけど、それよりも照明の方がはるかに電力を使います。実は音響機材はすごい進化を遂げていて、意外と電気を使いません。だから、音響に関しては、今すぐにでも世の中のフェスを蓄電池とソーラーパネルで運用できると思っているんです」
「技術的には小学生でもできるくらい簡単な仕組みで動いているんです。ソーラーパネルと、蓄電池、バッテリーを充電するために必要なチャージコントローラー、電気を直流から交流に変換してくれるインバーター。この4つの構成要素しかなくて、それぞれのステージにこの発電システムが組まれています。だから、本当は『太陽光だけですごいでしょ! と言いたいんじゃなくて、意外と簡単にできることなんだよ。みんなもやってみようよ』ってことを一番伝えたいですね」
私はこの話を聞くまで、再生可能エネルギーだけで野外フェスの電力をまかなうことは、技術的にすごく難しいことだと思っていましたが、それは思い込みだったようです。
そんな中で、音響だけでなく照明もすべて蓄電池でまかなうステージが今年初めて誕生しました。会場で2番目に大きいレデンプションステージです。
「ここのステージは意地でも100%蓄電池でやるぞ!と、最初の年から太陽光で作った電気を貯めながら、使いながら100%蓄電池で行っていました」
そう話すのは、今回照明も含めた電力システムをプランニングしたRA -energy design-の藤田晃司さんです。
ステージの裏にずらっと並ぶ蓄電池。大きさは、業務用の冷蔵庫くらいあるように見えます。ここでは一体どれくらいの電気が生み出されているのでしょうか。
「ここのステージで使われる電源の大きさがC型コネクターに対応していて、30A(アンペア)という規格になります。なので、3,000W(ワット)使える容量の太さをもったケーブルとコネクターとセットで使います。この機材が12個あるので、全部で36,000Wあります。でも、平均するとそこまでの量は使っていません」
通常の電気システムと、蓄電池でシステムを組む場合で、一番の違いについても聞いてみました。
「だいたいステージのエンジニアの方々は、『30A何口ください』という発注の仕方で、『ステージのL側に10口、R側には4口下さい』とか言われるんですが、蓄電池の場合そう簡単に用意できません。なぜかと言うと、30Aを出す規格はあるけれど、アンプや音響機材のほとんどが瞬間ピークで4,000〜5,000W出ることがあるんですね。これは突入電力と言って瞬間的に上がる電気量のことなんですが、蓄電池の場合、電池の中で化学反応を起こして、その結果電気を生み出しているので、機材から要求された電力量を提供するまでに若干遅れが生じます。安定的に3,000W出すのは簡単なんですが、アンプのように、音量が上がったり下がったり変則的な動きに、その瞬間で対応することは非常に難しいんです」
遅れると言っても、わずか1秒以内の出来事です。でも、ミュージシャンにとってはわずか1秒でも見逃すことはできません。藤田さんは、そのズレを限りなくゼロに近づけ、電気を届ける仕組みを考えました。例えば電池の質と性能の違い。リチウム電池と鉛電池では、リチウム電池の方が、電気を作って出す瞬発力に優れています。また、電池とインバーターの間にキャパシターを搭載し、キャパシターに常に電気を送り続け貯めておくことで、瞬間ピークに耐えることができるようになりました。
コンセントから無制限に電気を使えることが当たり前の現場では、そもそも電気をどれくらい使うか考える必要はありません。しかし、電源を蓄電池に変えることで、音響エンジニアや照明エンジニアの人たちは使える電力量に気を使い、電気を無駄使いしないよう工夫をしなければいけません。そのことをネガティブな要素として捉えるか、ポジティブな発想に転換するか、これは考え方一つで大きく変わります。
「今、この国のエネルギー事情はみんなが"want"することで作りだされているんです。みんなの"want"に応えて作ったのが今の発電所の数。でも、そうじゃなくて、自分が本当に必要な電力の量がどれくらいなのか、もっと知るべきなんです。震災直後にみんなが節電しよう! ってなったけど、じゃあ何を節電したらどれくらい下げられるのか、全然わからなかった。節電の意識は、自分が使ってるパソコンやテレビが何W使っているのか、まずはそれを知ることから始まるんじゃないかな。もし、電気を貯めてるバケツがあって、それが減っていくのが見えれば『俺、使い過ぎだな。ちょっと制限しよう』という気持ちが自然と芽生えてくるはず。機械の進化より、まずは僕らが進化した方がいい。電気の使い方という知恵のバージョンアップが今、必要なんです」
ソーラーパネルも音響機材も、どんどん効率のいいものが生まれていて、最新の技術が今抱えているエネルギー問題を解決してくれる日がいつか来るかもしれません。しかし、そもそも、今使っているエネルギー量が本当に必要な量なのでしょうか。私たちは今、何不自由ない生活の上に、さらに便利で効率がいいものを求め続けています。電気が無限にあるのは当たり前。私たちはこの常識を今一度、見直すべき時なのかもしれません。
「今年初めて照明をつけてみて、割とまだまだイケる! ということが見えたので、来年は照明を倍にして、よりリッチなステージを作りたいですね。あとは、他のステージをフルソーラー化する、というのが次の目標。最終的にはいつかメインステージもフルソーラーにチャレンジしたいです」
と、今後の目標を教えてくれた藤田さん。全てのステージでフルソーラーで演奏できる日もそう遠い未来ではないような気がしました。
目次へ移動 音楽を通じて届けたいメッセージ
「中津川THE SOLAR BUDOKAN」は、佐藤タイジさんの熱い思いに賛同したACIDMAN、Dragon Ash、10-FEETなど魅力的なアーティストたちが数多く参加している一方で、コンセプトやメッセージが強い分、参加を辞退するアーティストの方もいると言います。でも、それは正しい判断かもしれません。会場に一歩足を踏み入れれば、ここがどんな場所なのかよく分かります。どのステージに行っても佐藤タイジの名前が叫ばれていて、佐藤さんへの感謝とリスペクトの気持ちで溢れていました。半端な気持ちでここのステージには立てません。
「中津川THE SOLAR BUDOKAN」は、アーティストにとって、罪悪感を感じることなく音楽を奏でられる貴重な場であり、みんなが同じ方向を向いてメッセージを届けている、そんな空気感が溢れていました。
たくさんのフェスやライブを経験しているアーティストの東田トモヒロさんに、他のフェスとの違いを聞きました。
「今回タイジさんに声をかけてもらって初めて参加したんですが、すごくピースで参加者も出演者も偏りがない印象ですね。いろんなジャンルの音楽のアーティストやファンがいる感じ。自分がよく行く野外フェスよりも年齢層が高くて、それが嬉しかった。僕が演奏したニール・ヤングの曲をすごく喜んで下さった人がいて、きっと古い洋楽が好きな方もたくさん来ているんだと思います。タイジさんもルーツミュージックに詳しい人だから、タイジさんの人となりが投影されているんでしょうね。あとは参加アーティストのことをフラットに扱ってくれるんですよ。だから、アーティストの気持ちも伝わって、お客さんもすごく居心地がいいんじゃないかな」
東田さん自身、東日本大震災をきっかけに、自宅にソーラーパネルを設置して、暮らしで使う電力の40%を太陽光発電でまかなって生活しています。ソーラーパネルの組み立てや設置、配線などすべて自分の手で行ったからこそ、「中津川THE SOLAR BUDOKAN」の仕組みは、自分の家でやっていることと同じだな、と感じたそうです。
「タイジさんはスケールのでかい男だから、これだけでかい家(規模)だけど」と、にやりっと笑いながら話す東田さん。佐藤タイジさんがやっていることは、とても真似出来ることではありません。でも、東田さんのように自宅にソーラーパネルを設置して発電する、自分が信頼する電力会社から電気を買う、節電貯金をやってみる、など自分の暮らしの中で、一人一人にできることはたくさんあるはずです。
「自分みたいに自宅で発電をしたいと思っていて、その環境があるのであれば踏み込んでもいいと思うけど、みんなが太陽光発電を選ぶ必要はないと思うんですよ。すべての事に対して、僕たちはたくさんの選択肢を持っているはずです。よく子どもたちが学校でいじめたり、それに対して自殺者が増えたりするのは、出口が選べないone wayしか考えられていないから。今のメディアや社会では、ピラミッド型の人間関係が作られてしまっているけれど、本当は人間に順位なんかなくて。普段閉じ込められている魂をちょっとでも解放する、というのが、僕らミュージシャンの仕事なんです」
今の日本でエネルギー問題について面と向かって話をするのは、ちょっと難しいし、一歩間違えれば近寄りがたい人になりかねません。でも、音楽は最高にポジティブで自然なコミュニケーション方法だと思いませんか? 音楽が好きで、でもエネルギーには興味がなかった人たちに、はっとさせる可能性を秘めています。平和を願い、自然を愛し、地に足をつけて自給自足の生活をする東田さんの生き様は、音になり、歌詞になり、きっとたくさんの人にメッセージを届けているに違いない、と強く思いました。
目次へ移動 東京オリンピックをソーラーで
テレビで震災特集を見て、どんよりした気持ちになって、テレビのチャンネルを変えてしまったことはないでしょうか? 震災から5年経った今、私たちの生活は一見すると元通りになり、当時の記憶はどんどん薄れています。
東日本大震災が起きた時、テレビの画面でみた津波が押し寄せる映像、家族や友人を失った人たちの言葉、電気が止まり毎日不安な気持ちで過ごした日々。
忘れることは、時として必要です。でも忘れてはいけないこともあります。3.11があったから、たくさんの人がエネルギーを考えるきっかけになりました。私自身もそうです。もう同じ失敗を二度と繰り返してはいけない、多くの人がそう感じたはずです。
「中津川THE SOLAR BUDOKAN」は原発反対運動ではなく、自然エネルギーの賛成運動です。だからこそ、多くの人が賛同し、着実に伸びて、今では完全に一人歩きを始めていると言います。
「THE SOLAR BUDOKANがすごく育っているのは、自分にとってでかいし、みんなとここまでやれたという実感と経験値があるから、自信をもってやれるよね。最近よく言っているのは、音楽はそれ自体すごく平和なんだって。これ、真実やろ。だからSOLAR BUDOKANは辻褄があっているんだよね。音楽の在り方と平和に対する気持ちがきれいに歪みなくばちんと繋がって一体化しているわけやん。何か行動を起こさないと、その実感は味わえない。行動というのはTHE SOLAR BUDOKANに行っとこう、くらいのことでもいい」
佐藤タイジさんに次のチャレンジを聞くと、迷いなくこう答えてくれました。
「東京オリンピック・パラリンピックをソーラーでやる、ということ。スポーツは走ったり飛んだり、音楽なんかより全然電気食ってないからね!」
この人は自分の信念があってどこまでもスケールのでかい男だなぁ、と最後の最後に感服されられてしまいました。何より、佐藤タイジさん自身がこの活動を楽しんでいることがとても良い加減。「いい加減、じゃなくて良い加減」です(この言葉は佐藤タイジさんが教えてくれました)。
今回インタビューをしたみなさんが口を揃えて「野外フェスは自然エネルギーで開催するのが当たり前になる。そんな社会が来てほしい」と言いました。佐藤タイジさんには「こんな道もあるよ!」と音頭をとって、これからもたくさんの人を引っ張って行ってほしいと思いました。きっと来年はさらに進化したTHE SOLAR BUDOKANの姿が見えることでしょう。
取材・文:笹尾実和子
写真・編集:上田壮一
写真:有高唯之(佐藤タイジ ポートレート)
協力:鈴木"南兵衛"幸一