考える、それは力になる

  • facebook
  • Twitter
  • Instagram
BSR総会に学ぶ「企業と社会責任」|地球リポート|Think the Earth

NTT DATAThink Daily

  • 地球リポート
  • 地球ニュース
  • 緊急支援
  • 告知板
  • Think Dailyとは

地球リポート

from Japan vol. 01 2000.12.20 BSR総会に学ぶ「企業と社会責任」

企業の社会責任についての意識が欧米を中心にどんどん高まってきています。その最先端の人や情報が集まる、BSR(Business for Social Responsibility)という組織のカンファレンスにスタッフが参加してきました。第一回目のリポートはその報告からです。

目次へ移動 BSR総会へ

2000年11月8日から10日、ニューヨーク、マリオット・マーキス・ホテルにおいてBSR*総会が行われました。8回目を数える今回は、BSR会員であるリーバイ・ストラウス、ジョンソン&ジョンソン、ヒューレット・パッカードなどの大手企業を始め、業種・規模も様々な企業や団体からの参加者が集まり、初めて1,000名を超える総会となりました。

今、世界では、売上の一部を社会貢献活動に寄付するだけに留まらない、社会にもビジネスにもプラスの効果をもたらす企業活動が盛んに行われています。例えば、企業などが社会的・経済的にギリギリの状態にある世界各地の人々から

直接、原料や雑貨製品を公正な価格で、持続的に購入するという「フェア・トレード」。企業が製品の原料や店頭で取り扱うユニークな商品の供給先を確保する一方で、「取引先」の土地の人々が経済的に自立する道を開いています。こういった活動のベースとなるのが「CSR (Corporate Social Responsibility=企業の社会責任)」という考え方です。アジアや南米で児童労働を利用してつくられた製品が消費者にボイコットされ、その企業の評価が著しく下がっていることなどに象徴されるように、今や欧米ではこの考え方を取り入れることなしにビジネスを成立させることは出来ないと言われています。

こうした時代の流れを受け、企業が社会責任を果たすことを支援する会員制組織が世界中で設立されてきました。今回はそうした組織の一つ、BSRが開催した、非会員企業や個人にも開かれた総会(BSR Conference)に参加してのリポートです。

参加者で賑わう受付

BSR (Business for Social Responsibility)
1992年に設立されたアメリカ、サンフランシスコに本部を置く会員制組織。「企業が倫理、コミュニティ、環境へ配慮し、持続可能なかたちで利益を得るように、会員企業を支援すること(斎藤槙氏著 「企業評価の新しいモノサシ」生産性出版より引用)」をミッションとする。参加企業は1,400以上。2000年度の予算は700万ドル(約7億6千万円/$1=109円として)。
BSR総会は年に一度、3日間に渡って開催されるイベント。過去にはクリントン大統領や、アイルランド初の女性大統領から国連人権高等弁務官となったメリー・ロビンソン氏などがスピーカーとして参加した。次回は2001年11月7-9日 ワシントン州シアトルにて開催を予定。テーマは「企業の社会責任の未来を考える(Learning for the Future of Corporate Social Responsibility)」。

目次へ移動 世界に広がるCSR

今回のBSR総会は"Adding Value: Strengthening Corporate Social Responsibility Strategies" 価値を高める:企業が社会的な責任を果たす上で必要な戦略を強化するをテーマに開催されました。総会2日目、CSR EUROPE*と行われた衛星ビデオ会議(Transatlantic Plenary)においても、米企業を代表してニューヨークからジョンソン&ジョンソン社 会長/CEOのラルフ・S・ラーセン氏が、欧州サイド、ブリュッセルからはダノングループ 会長/CEOのフランク・リブー氏が、CSRという概念が如何に今、ビジネスにおける「スタンダード」となっているかを強調しました。

米国のBSRが、欧州のCSR EUROPEと新たなパートナーシップを結び、同時会議を実現した今回の総会を、在ニューヨークの社会責任コンサルタント 斎藤 槙氏は「前回に比べて、BSRの活動の広がりを感じる。来年は、アジアとのリンクを!という期待がふくらみます。」と評しています。

(左)大会場を使っての全体セッション(右)総会初日朝の全体セッションのスピーカー「グラニー・D」ことドリス・ハドック氏、90歳!財政改革を訴え全米を徒歩で遊説。その活動はNBC, CNN, ABCなど全米ネットワーク局で紹介されている。

CSR EUROPE(Corporate Social Responsibility in Europe)
http://www.csreurope.org/
欧州においてBSRと同様の役割を果たしてきた団体。2000年11月以前の名称は"the European Business Network for Social Cohesion (NBNSC)"。

目次へ移動 BSR総会で学ぶ:ワークショップ

BSRの最高責任者ロバート・ダン氏は、総会テーマにおける「strategies(戦略)」を、"strategies that work for the benefit of everyone- that add value for all stakeholders((参加者=民間セクターが)消費者、投資家、地域住民などの企業の利害関係者、いわゆるステークホルダーのための利益を生む戦略)"と説明。そして総会期間中は、企業からの参加者がそれぞれ立場でかかわりを持つステークホルダーと良好な関係を構築する上で必要な「戦略」を学べるよう、多数のワークショップが開催されました。

セッションのスピーカーや進行役をつとめるのは、さまざまな企業やNPOの代表者たち。環境や倫理、投資家との関係、そして労働環境など、「企業の社会責任」が問われる各分野で、実際に積極的な役割を果たしている方々が「現場」を紹介する様子からは、社会に貢献しようという強い熱意が感じられました。

ワークショップの模様

社内の意見調整を図る企業のCSR担当者に向けたワークショップ*、地元ニューヨークの若者たちを招き「ゼロから始めるNPO/社会責任も果たすビジネス」をテーマに行ったワークショップ**など、各ワークショップのテーマの設定も、分野の多様さ同様ユニークで、「"企業の社会責任"という観点において既にリーダー的存在の企業だけではなく、これからそれを学ぼう・実行しようという企業・個人にまで、広く門戸を開く」というBSRの基本姿勢を見ることができました。

今回いくつかのワークショップに参加して一番興味深かったのは、大企業が別の大企業やNPO等の民間団体と連携し、互いの利点を最大限に活かした効果的な社会貢献活動を実践しているということです。 例えば「コミュニティにおける教育的課題解決のためのテクノロジー活用(Leveraging Technology to Address Community Education Needs)」と題されたセッション。ここではインテル社 インテル財団 エグゼクティブ・ディレクターのピーター・ブロフマン氏により、同社のプロジェクト"ティーチ・トゥ・ザ・フューチャー (Teach to the Future)*"が紹介されました。

インテル社は、コミュニティの教育的課題への取り組みという「共通の目標」を持つほかの企業、民間財団そしてNPOと提携。企業は物資やサービス、民間財団は資金等、そしてNPOは具体的なノウハウ提供というように、それぞれの得意分野に応じて役割を分担することにより、効率良く目標を達成していると言います。
参加主体ごとのポリシーのちがいやコミュニケーションなど、第三者とのコラボレーションに伴う新たな課題も勿論ありますが、良好なパートナーシップのもと、「全ての関係者」が努力することで「共通の目標」を達成="WIN-WIN for everyone*"が実現していることに、大変刺激を受けました。アメリカではひとつの企業の提案により、競合他社や、業種も規模もまったく異なる企業・団体間で協力体制がつくられ、社会に大きな貢献がなされているのです。

[社内の意見調整を図る]企業のCSR担当者に向けたワークショップ
"Conversation with Disbelievers: Measuring Benefit, Persuading Skeptics"
CSR担当の企業マネージャークラスを対象として、CSR活動が企業利益にもたらす効果に懐疑的な上司・同僚などを説得する方法を学ぶというもの。

地元ニューヨークの若者たちを招き「ゼロから始めるNPO/社会責任も果たすビジネス」をテーマに行ったワークショップ
"From the Ground Up: Building Your Business Responsibility"
若者たちがビジネスを始めるのを支援するNPO "ユース・ベンチャー"で活動する高校生たちが参加。セッションスピーカーの1人は、大学院の教授から資金などの支援を受けながら、飲料事業を3年間で売上3億5千万ドルの規模にまで成長させた「オネストティー」社社長のセス・ゴールドマン氏。

ティーチ・トゥ・ザ・フューチャー (Teach to the Future)
学校でコンピュータを有効に活用すること、結果として子供たちがより効果的に学ぶ機会をつくることを目的に教員をトレーニングするプログラムを運営。アメリカでは1,000日間で10万人、世界では20ヶ国で40万人の教員のトレーニングを目標としている。
参加企業:ヒューレット・パッカード、IBM、東芝 他多数、参加基金:ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金
参加NPO:ASSET(Arizona School Service Through Educational Technology)など教育関連からも多数。

WIN-WIN for everyone
「企業とステークホルダーとの関係において、両者に共通する利益や価値観を追求し、ともにプラスの関係を生む(中略)自分も相手も勝利者であり、どちらかが敗北者ということにならない」(前出の斎藤 槙氏の著書参照) CSRを説明するのにしばしば引用されるコンセプト。「フェアトレード」もそれが実現されている一例。

目次へ移動 参加者の声

総会で出会った人々に参加理由を聞いてみたところ、「企業が社会責任を果たす方法や戦略に関するトレンドをつかむため」、「将来企業にとって脅威となりえる問題について事前に学ぶため」など、総会を「学習の場」と捉える声が多く聞かれました。 ある参加者の語った「コミュニティ(とそこに暮らす消費者)が我々のビジネスを支えてくれているのだから、企業は自社の活動がコミュニティに与えるインパクトに責任を負うべきである」という意識も、参加者のあいだで、ひいては世界のビジネスにおいてはもはや共通のものと言えるでしょう。

「自分の勤める企業が社会にとって意味ある活動を行っていることを誇りに思う」 と話してくれたのは総会のスポンサー企業の女性ですが、今回の総会が大変な盛況であった背景には、「純粋に"正しい行い"であるから」という理由だけではなく、そうした意識や戦略無くしてビジネスは成立しない、という考え方があるのだということを実感させてくれました。実際CSRのコンセプトを「ビジネスセンスとして必須」と答えた方もいました。

(左)企業ブース(中央)BSRブース[入会受付] (右)コーヒーブレイク: 会場での食事は企業のスポンサード

目次へ移動 世界とともに

会員企業が社会的な責任を果たすことを支援する組織、BSR。その総会には多国籍企業のトップからベンチャー・ビジネスの社長、環境系ラジオ番組のプロデューサや企業の社会責任を調査・格付けする機関の代表者など、さまざまな人々が一堂に会します。そして業種も国籍も世代も超えて、参加者誰もが「企業の社会責任」という共通のテーマをかかげる人々と、ともに学び、議論を交わす。こんな貴重な機会がほかにどれだけあるだろう?BSRという組織の功績に感銘し、世界中の「現場」が持つパワーにおおいに刺激を受けた3日間でした。

(左)会場で渡されるバッグとネームホルダー 「これはBSRからのギフト。総会後、必要なければ返却してください」とリサイクルの呼びかけ(右)パンフレットは勿論100%再生紙使用

目次へ移動 コラム:日本の企業は?

大変な盛況のなか最終日を迎えた今年のBSR総会でしたが、日本人を含むアジアからの参加者はあまり目立ちませんでした。BSR総会は東海岸と西海岸で交互に開催されており、前回サンフランシスコで行われた第7回総会には、アジア方面からも多くの参加があったとの事。とは言え、参加国が約30にも及ぶ今回の総会に、日本そしてアジア諸国からの参加者が少なかったのは、地理的な理由だけでしょうか?
特に目立った中南米からの参加をダン氏は、「中南米圏において"企業の社会責任"に対する意識が急激に高まっている証」としています。それでは多国籍企業トップ200の売上全体のうち、実にその約39%を占めていながらBSRで目立ったプレゼンスのない日本企業の意識は、まだまだ低いということになるのでしょうか?

日本でも朝日新聞文化財団による調査*やBSRー経団連のパートナーシップなどに見られるように、企業の社会責任に対する関心は高まりつつあります。また、アメリカ国内での日系企業の優れた社会貢献活動は、メディアでも取り上げられている通りです。

実は今回、ソニーが米国にある「日系企業」としてではなく、「日本企業」として初めてBSRに入会しました。このソニーの行動は日本の産業界にどのようなインパクトを与えることになるでしょうか?企業は私たちに商品やサービスを提供するだけでなく、環境や社会に大きな影響力を持つ存在です。ソニーのみならず、さらに多くの日本企業が、企業の社会責任に対する意識を高めるこのような機会に学ぶことができれば、今世界で活発に取り組まれているのと同様に、日本でもより良い企業ー社会の関係構築が進むのではないでしょうか?

朝日新聞文化財団による調査: 「企業の社会貢献度調査」
朝日新聞文化財団(理事長・箱島信一朝日新聞社長)が毎年社会貢献に取り組んでいる企業を表彰する。2000年度「企業の社会貢献賞」の大賞はリコー。

参考文献
「企業評価の新しいモノサシ」社会責任からみた格付基準
斎藤 槙著(生産性出版)
著者の斎藤氏はコロンビア大学国際関係大学院にて修士号取得後、企業の社会責任度調査・格付けを行うシンクタンク「経済優先順位研究所(CEP: Council on Economic Priorities)等に勤務。 NY在住の社会責任コンサルタント。企業とNPO(非営利団体)と市民をインターネットで繋ぎ、社会を活性化することを目的とした(株)アース・セクターの共同経営者。 著書では、企業とNPOの戦略的提携、環境や社会に配慮することは企業の収益に繋がることなど「企業の社会責任」の最新事情を分かりやすく報告。(この分野の知識が全くない、という方に特にお薦めしたい一冊。)

取材・写真: Think the Earthプロジェクト 中島 愛子

    次へ

    前へ

    Bookmark and Share