地球リポート#2『環境先進国スウェーデンの取り組み』で、環境にできるだけ無理をさせない持続可能な社会づくりをする、スウェーデンの姿をご紹介しました。そのときインタビューしたレーナ・リンダルさんが、スウェーデンのコンサルティング会社“Esam"と共同で企画している『サステイナブル・スウェーデン・ツアー』に参加してきました。
スウェーデン北部の実験的循環建築、軍用地跡を利用した総合環境施設、スウェーデンで初めてのエコ自治体などを訪れ、北極圏の美しい自然を満喫してきたので、写真を交えてご報告します。
目次へ移動 未来の都市生活者のためのカーパーク"Green Zone"@ウーメオ市
Green Zoneは、自動車ディーラーのCarstedts、自動車メーカーのフォード、ガソリンスタンドのStatoil、ファーストフードのマクドナルドといった企業の他、地元自治体や、技術者、建築家、コンサルタント...が、敷地内の施設・建物すべてと、そこで利用されるサービスにいたるまで、なるべく自然の循環にあわせて、資源の効率利用と再利用を考えて作りあげたカーパークです。 すでに各所で個別に使われていた先端技術の集合体ともいえる建築設計、施設プランは、2000年から稼働。世界から注目を集め、年間見学者は約100万人にのぼる実験施設です。
"Green Zone"のパンフレットには
『100年前、人口は15億、うち15%が都市に住んでいました。 現在、60億の人口の半分が都市に住み、50年後は100億人のうち、70から75%が都市に住むと言われています。 人間は、水や空気や食糧、石油や鉄などなど、すべて自然界からの恩恵で発展してきたのに、今はその自然界が続かなくなるような社会システムの中で生きています。最終的には、自然によって強制的に軌道修正を求められる日が来ます。その日のために、どうやって新しいシステムを身につけていけば良いか、それを考える実験施設がGreen Zoneです。』
ハードとしての"環境配慮型"建築を作るのであれば、それぞれの専門家が図面を描いて業者が材料を搬入し組み立てればよいところですが、Green Zoneでは、"社会システム"を考え、パーツごとではない、あらゆる関わりを持つ人々の知恵・技術が、計画の最初から最後まで関わりをもって作られました。参加したのは、コンサルティング会社、企業、自治体、建築家、エネルギー専門家、電気・水道技術の専門家・・・など様々です。 こうして作られた施設は、釘を使う代わりに建材の組み合わせやボルトを打ち込むことで、解体しやすい建物にしたり、植物を使った室内空気浄化システムを取り入れたり、マクドナルドの厨房で使ったグリルの熱エネルギーを別の建物で利用するなど、あらゆる分野で先端の技術を取り入れています。また、働く人が施設を理解し使いこなすためのトレーニングなど、ソフト面の充実も含めたトータルなプロジェクトになっています。 そこで営業する各社も、代替エネルギー(エタノール)車を販売したり(Carstedts)、再生利用部品、排出ガスの有害率を下げたガソリンを取り扱う(Statoil)など、未来社会にきっと存在するであろう商品を扱っています。
その実績は・・・例えば、建物の側面に取り付けられた太陽パネルによって、熱供給を従来より60%削減したほか、資源リサイクル率 99%、電気消費 60%減、再生可能エネルギー使用率 100%、水消費 76%減・・・と、めざましい結果があらわれています。
もちろん、予想外のことも起こっています。例えば、循環水の鉄分が高く水道管が錆びて詰まってきているなど問題もありますが、それを解決しながら運営するのも実験施設ならではです。
"Green Zone"の仕掛人であるPer Carstedts氏は、パンフレットの中でこう語っています。 『我々は魔法を使っているわけではなく、可能な技術を使っているのです。我々にもできるのですから、あなたにもできます。』
目次へ移動 失業者対策と環境教育、市民交流の場"EKO ARENA"@ルーレオ市
1940年に建設され、もともと軍の倉庫として使われていた建物を壊さずに、環境に配慮した建造物の修復を行い、市民に開放しました。
建物に使われている素材もふくめ、敷地の全てが展示対象と考えられ、日常のなかで環境への配慮のしかたを学んだり、これまで使っていたものの代わりとなる商品や素材について学べるようになっています。
まさに総合環境センターと言っても過言ではない"EKO ARENA"には、こんな機能があります。
ここでは、失業者が野菜の栽培をしたり、庭の手入れをすることで、学びながら収入を得ています。また、大学へ進む前の学生の研修の場としても使われています。 「この"EKO ARENA"には、企業の先端環境技術を展示する場、さまざまな分野の人が集まる出会いの場、そして失業者に対する研修の場という3つの目的があります。」と、ルーレオ市職員のLena Bengtenさんが言うように、"環境"だけにフォーカスしていないところが、ポイントです。
目次へ移動 経済と社会、環境がうまく機能するために
"EKO ARENA"の例にもあるように、環境への取り組みの多くは、失業対策や福祉政策などとあわせて行われています。環境だけやっていても根本的な解決にはならない...経済、社会がうまくまわらないと、環境も良くならないという考え方なのです。
スンズバル市(Sundsvall)では、以前は治安の悪かったNackstaという地域で、若者をプロジェクトリーダーにし、移民や高齢者も巻き込んで、街の建物修復や公共プールの管理などを行うことで、安全で住みやすい街をつくり、環境の改善をしました。
ルーレオ市では、NPOの運営する市民農場で、移民を雇用しています。スウェーデンは政治難民など、移民が多い国なので、移民対策も重要なのです。
今回のツアーを企画した"Esam"の代表、Torbjorn Lahti氏も、現在は環境に配慮した自治体づくりのコンサルティングを行っていますが、最初は過疎地対策を依頼されたのが、自治体コンサルの始まりだとか。
目次へ移動 子どもに考える気持ちを植えつける
未来を生きるのは子どもですから、子ども達に、環境のことを考える気持ちを植えつけることは、大切なことです。
オーベルトーネオ市(Overtornea)で幼稚園の先生をしているアンブリットさんに、お話を聞きました。
オーベルトーネの幼稚園には、"環境幼稚園"と書いた看板がついています。看板の字が青いと、省エネに取り組んでるということ。黄色は、ごみ分別と循環の考えを持っているということ。みどりは自分達で有機栽培をしていて、赤は、一年中野外活動をしたり、クリエイティブな校庭になるよう工夫しているところです。
ある日、化石燃料や車を使うと地球に良くないという話をしたら「こんなひどい問題を何とかできないのか?」と、ある子どもが言いました。そこで、子ども達にどうしたら良いか尋ねると、「車をあまり使わない」「石油の代わりに木を使う」「子どももおもちゃを買う量を減らす」などの、提案が出ました。そして、その日、迎えに来た母親に子どもが「お母さん、地球の周りの雲に大きな覆いができちゃってるから、車を使うのをやめなきゃ!」と、言いました。少し心配させ過ぎたかもしれませんが、子どもが自分で理解し考えたことが良かった。さらに、将来に対する希望を持たせることができたら、と思います。子どもに知識を与えることはできませんが、自然を愛する気持ちを育てることはできます。外の壁に太陽電池のパネルをつけ、それでおもちゃの電車を走らせることで、どうやって電力が生まれるのかを教えられます。先生達がお芝居をつくって見せたり、子ども達がお芝居を作ることもあります。
例えば、子どものお芝居には、『魔女が森の中をひどい車で走っていたら、動物を殺しちゃったり、排気ガスを出したりしたので、森の妖精トロルと子供が魔女に言って、自転車に切り替えさせましたとさ』というストーリーのものがあります。想像力豊かな子どもが考えるお話は、それだけで絵本が一冊できそうですね。
目次へ移動 根っこで理解すれば、その上に制度やしくみをつくることができる
ルーレオ市(Lulea)で町の農場づくりをしているルーレオ工科大学のNils Tiberg博士が、描いてくれた絵は、スウェーデンの社会づくりの考え方をわかりやすく表しています。
根っこに水や栄養分を与えないと、幹は太くならず、枝葉は広がらないのですね。 つまり、心から理解してもらうことで、法律や制度などが意味を持ち、解決方法に実効性が生まれるということなのだと思います。 そのためには、どうやって根っこに養分を与えるか...人に伝え、理解してもらうかが大切になってきます。
オーベルトーネオ市(Overtornea)のアジェンダ21担当、Rolf Kummu氏はこう話します。
「啓発は大切です。人を引き付けるために、新しいことをやらなければならない。
例えば、スウェーデンにMERという飲み物があって、『美味しいので、炭酸ガスをいれる必要がありません』という宣伝文句を使っているのですが、市ではそれをもじって、ラベルをまねて 『環境によいので、炭酸(CO2)を出しません』というラベルを作っています。」
目次へ移動 おわりに
誤解を恐れずに言うと、スウェーデンの環境技術や環境対策は、日本や他の国とくらべて、ずば抜けて進んでいるというわけではありません。環境への取り組みで評価を受けている都市ならドイツにもデンマークにもあります。日本にも、すばらしい技術があり、アイデアがあります。前出のLahti氏も「スウェーデンの取り組みすべてがベストではない。」と言っています。そもそも、地域特性が違う国々を単純に比較することはできません。
けれども、Tiberg博士が描いたように、『何のために、どうしてこれをやるのか』の根っこ(気持ち)の部分を育てることを大切にしているのが、スウェーデンだと思うのです。様々な分野の専門家が集まり、ひとつのプロジェクトを作り上げたり、市民のための開放施設をつくったり、子どもの教育や広報に力を入れることで、誰もがこれからも安心して生きていくために環境に配慮したくらしが大切だと、心から思える工夫をしているのです。ある人が「スウェーデンには石油会社なく、"エネルギー会社"と呼んでいます」と言っていました。将来、化石エネルギーに頼らない生活をする日がくるだろうから、石油会社は必然的に"エネルギー会社"になるのです。
すべてを変えるのは、明日ではなく、10年、20年後。そのために、どのようにそこに到達したらよいかを考えることが出発点。リサイクルしましょう、アイドリングストップしましょう、電気はこまめに消しましょう...という目の前のことも大切ですが、それだけだと、あまり前向きな気持ちにはなれません。時には、"将来、こんな社会を目指すから、そのために今、これをやるんだ"という長い目を持つことが大事だなと感じました。
レーナさんのスウェーデンツアーは、2003年9月にも計画されています。
ツアー内容は、
http://www.netjoy.ne.jp/~lena/kankyoguide.html
でご確認ください。
関連サイト
ナチュラル・ステップ
http://www.tnsij.org/
スウェーデン環境保護庁のページ
http://www.naturvardsverket.se/en/In-English/Menu/
取材・写真:Think the Earthプロジェクト 原田 麻里子