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サステナブル・シティ  〜持続可能な社会は可能だ!|地球リポート|Think the Earth

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地球リポート

from スウェーデン vol. 41 2008.07.18 サステナブル・シティ  〜持続可能な社会は可能だ!

世界は大きなターニングポイントを迎えています。地球温暖化が世界中のあらゆる国の政治や経済の課題になり、多くの人の関心を呼ぶようになりました。今後は「持続可能な社会」の実現に向けた本格的な取り組みが世界中で始まるでしょう。
「持続可能な社会」とは、2050年には90億人になるといわれる世界の全ての人が、「生活の質」を向上(もしくは維持)しながら、それでいて地球上の有限の資源を賢く循環させている社会のことです。
北欧の国々は世界に先がけ、この「持続可能な社会」の実現に向けて、もう何年も前に舵を切っています。今回、そんな環境先進国の代表格でもあるスウェーデンの首都ストックホルムを訪れました。そこでは、驚くほど先進的で合理的なサステナブル・シティが機能し始めていました。

目次へ移動 ハンマビー・ショースタッドの挑戦

静かな水辺に作られたボードウォーク

ストックホルムの南東にある美しい水辺の街、ハンマビー・ショースタッド臨海地区の再生計画は、ストックホルム最大の都市再開発計画として知られています。都市再開発というと日本でも盛んですが、どちらかというと高層ビルが中心の商業都市のイメージです。ハンマビーがユニークなのは、200ヘクタールにも及ぶ広い土地を、「持続可能な街=サステナブル・シティ」にすべく徹底的に考え抜かれて計画されているということです。
もともとは、2004年の夏期オリンピックをストックホルムに招致する計画があり、「環境に徹底的に配慮した選手村」として計画された街だったそうです。結果としてオリンピックを呼ぶことはできませんでしたが、市がプロジェクトとして、ハンマビーにサステナブル・シティを作る計画を継続することになりました。

ハンマビーの開発計画は「持続可能」というコンセプトに徹底的にこだわり、環境負荷を1990年代の中ごろの半分にすることを目標にしています。最終的に2万5千人が暮らし、働く街として2017年に完成する予定です。2008年現在、既に1万人以上の人が暮らしており、街として十分に機能しているようでした。開発が始まって以来、サステナブル・シティの最先端のモデルとして、世界中から毎年1万人を超える専門家やリーダーたちが訪れているといいます。

大きなゴールは環境負荷を1990年代の中ごろの50%にすることですが、その目標に基づいて、土地利用、交通、建材、エネルギー、水と汚泥、ゴミ等について、それぞれに明確なゴールを数多く定めています。
たとえば、ほんの少しだけ例をあげると、土地の利用では「春と秋に少なくとも4-5時間の日照がある中庭スペースを15%以上確保する」、交通手段では「2010年までに80%の住民が公共交通もしくは徒歩、自転車での移動をする」、エネルギー利用では「全ての暖房は、余熱もしくは再生可能エネルギーを利用する」、水に関しては「1日、ひとり100リットルの削減」、ゴミに関しては「80%の食品廃棄物を肥料、もしくはバイオエネルギーのために提供」......などなど、どれも具体的で、しかも野心的な目標ばかりです。

目次へ移動 サステナブル・シティの暮らしとは

住宅地の様子。環境負荷は1990年代の半分になっているのだそう。

フレドリック・モーリッツさんとお子さんのヘクトー君。

実際にこの街の集合住宅で暮らすフレドリック・モーリッツさんの家を訪問することができました。たとえば、この家を中心に循環するイメージを見てみましょう。

バイオガスで調理できるガスコンロ。どこでも売っている普通の商品とのこと。

屋上には太陽熱温水器や太陽電池パネルが設置されている。

まず窓は三重窓で、高断熱の壁が使われています。パッシブソーラー技術が取り入れられている建物もあります。集合住宅の屋上には太陽電池パネルや太陽熱温水器が設置されていて、温度や発電容量などをモニターすることができます。足りない電力は電力会社から買うことになりますが、スウェーデンでは太陽電池や風力発電など自然エネルギーを使った電力を選んで買うことができます(しかも、共同出資をした風力発電の場合は通常の半額と安い!)。

生ゴミや燃えるゴミは分別してこのパイプの中に入れると、コンピューターで制御されたしくみがあり、中央集積所まで空気に吸い込まれて搬送される。

共同のゴミ置き場。分別の品目は細かく分けられている。

生ゴミは分別して出すと中央集積所に集められたあと、肥料に変えられ、ストックホルム近郊の農家で野菜などを育てるために使われます。紙やガラス、電子部品などは資源として再利用するために、細かく分別して出す共同のゴミ置き場があります。トイレやキッチンからの下水は下水処理場に集められ、バイオガスを作りだします。作られたバイオガスは家庭に供給され、ガス調理器などで使います。下水処理場で処理された水は、ヒートポンプで熱交換し、地域暖房、地域冷房に使われた後に海に排水されます。燃えるゴミはコジェネプラントに送られ、電力と、燃やすときに出る余熱が地域暖房に使われます。

一軒に一区画の菜園があり、小さな農のある暮らしも可能。

家から一歩出ると、街にはバイオガスで走るバスが走り、スーパーマーケットでは環境に配慮された商品がずらりと並んでいます。雨水もいったん溜められたあと、下水に流すのではなく、直接海に流しています。路上に降った雨は、砂で浄化してから海に流しています。

街のスーパーマーケットには、「環境ラベル」がついた商品がずらりと並ぶ。

スーパーの入り口にあった、カンやビンの自動回収器。緑のボタンを押すと換金され、黄色いボタンを押すと、お金が戻ってくる代わりに途上国に寄付することができる。

まとめてみると、以下のようなイメージです。エネルギー、水、ゴミの3つに分けて徹底的に循環型のシステムが考えられています。

エネルギー/太陽熱→電気・温水

足りない電力は風力や太陽など再生可能エネルギーで発電された電気が供給される(スウェーデンでは再生可能エネルギーを使った電気を選ぶことができます。しかも、通常の電気と値段が変わらない。共同出資をした風力の場合はより安い!)

水  雨水      → 防火用水など → 海  下水(糞や尿) → バイオガス  → 車の燃料、家庭に供給          → 肥料     → 農家へ(これからの課題)          → 処理された水 → 地域暖房や地域冷房  →海

ゴミ  生ゴミ   → 肥料       → 農家へ                   → バイオ燃料として発電所へ  燃えるゴミ → コジェネプラント → 電力、余熱を地域暖房へ  資源ゴミ  → リサイクル

この家庭を見学して印象深かったのは、特別「エコ」な生活ではなく、ごく普通の暮らしがそこにあったことです。
キッチンのガスコンロはどこでも売っているもの。そこに供給されているガスが天然ガスではなくバイオガスなだけです。シャワーからも太陽熱で温められた水が出ますが、もちろん使い勝手は変わりません。エネルギー使用量がパネルで可視化されていたり、玄関でガスや電気を消すことができるといった細かい工夫も多々ありますが、基本的には世界中のどこにでもある都市の暮らしと大きく変わりません。冒頭でも書いたような、暮らしの質は下げず、資源がうまく循環する「持続可能な社会」の姿が、まさしく目の前にありました。
何かを我慢したり、環境に良い暮らしを強く意識しなくても、生活を支えるインフラ(街)そのものが持続可能になっていれば、人は気負わずに自然体で暮らせば良いのだということを改めて感じました。
実際、この地区に住み始めたのは環境意識が高い人たちばかりではなく、仕事場となるストックホルム中心街にも近く、自然が近くにあり、かつ住宅の取得費用も他とそれほど変わらなかったということが大きな理由になっている人も多いのです。
もちろん、こうした街に住むことで、地球全体のことを考えるきっかけにはなっているでしょう。この街で育った子どもたちが、将来どんな考えを持つようになるのか、それはちょっと楽しみです。

目次へ移動 下水処理場がエネルギー会社に!?

バイオガス・プラント

ハンマビー・ショースタッドを支えるインフラのなかでもユニークなのが下水処理場です。
家庭から出る糞尿や汚水を集めてきれいな水にするのが下水処理場の仕事のイメージですが、ここでは、その処理の過程でメタンガスを取り出し、バイオガスを作っています。つまり、下水処理場であると同時にエネルギー会社でもあるのです。作られたバイオガスは家庭で使うガスとして供給される他、ストックホルム市内を走るバスなどの公共交通の燃料として使われています。

巨大な岩盤の下に造られた浄水施設。もともとは防空壕だったとか。

日本でも家庭から出る年間の生ゴミの量は1000万トンにもなります。そのほとんどが、燃えるゴミとして出されて焼却されているわけで、これはもったいないですよね。バイオガスの資源だと考えれば、生ゴミの見方も変わります。

施設を案内していただいたStockholm Vatten社のラーシュ・ラームさん。

ラーシュさんは、「エネルギーは都市に眠っている」と言います。都市人口が増えれば(生ゴミやトイレの数が増えるほど!?)、バイオガスの原料も増えるというわけです。また、バイオガスの組成は天然ガスと同じくほとんどがメタンですから、純度を高くすれば、すでにある天然ガスのインフラを全て使うことができます。実際ヨーロッパでは天然ガス網上に200以上のガス補給所があり、550万台のガス車が走っています。このインフラを使ってバイオガス車を増やしていくことが可能なのです。
技術が向上し、インフラが整い、効率を良くしていけば、化石燃料に頼らない社会を作ることも夢ではないと思えてきます。実際に、ストックホルムは2050年までに「Fossil Fuel Free Cityー化石燃料に依存しない都市」の実現を目指しています。
2050年に世界の人口は90億人になります。そのとき都市人口は55億人になっているという予測があります。都市を持続可能にすることは、実は本質的な課題なのです。

ラーシュさんは圧縮液体バイオガス技術も研究しており、将来は新会社を作る計画も話してくれました。地域のエネルギーを、地域に循環する資源で作り出す新しい発想の会社になるでしょう。

ラーシュさんのクルマは、もちろんバイオガス対応車。 (写真右)給油口の横にガス栓が。

目次へ移動 持続可能な未来を選択する

「◎◎しなければならない」というルールではなく、「持続可能な社会」を目指すための多用な選択肢が用意されている、というのがスウェーデンの印象です。つまり、スウェーデンの人々は誰かから強制されて義務感で持続可能な社会を目指しているのではなく、主体的に未来を選び取っている感覚があるのだと思います。
たとえばエコ・カーを例にしてみましょう。現在、国産のボルボやサーブの他、シトロエン、フォード、フィアット、メルセデス、フォルクスワーゲンなど各社からエタノールかバイオガスが使える自動車が発売されています。ガス補給所などのインフラが準備され、市場にバリエーションある商品が投入されており、環境意識が高くなくても国民は簡単にエコ・カーを選ぶことができます。また、エコ・カーに乗る人には様々なメリットが与えられます。たとえば、購入するときには補助金が出たり、渋滞税(平日の朝夕のラッシュ時にストックホルム中心部に乗り入れる車に科せられる税金)が無料になったり、市内の駐車場が無料になったり、などなど。環境に良い選択をすると「ご褒美」がもらえ、そうでなければそれなりの費用を支払うことになります。「アメとムチ」をうまく使いながら、国民にわかりやすい選択肢を提示してアクションを促しています。その結果、2008年5月には、スウェーデンで売られている新車の36%がエコカーになっています。
他にもMAXというハンバーガーショップでは、商品に二酸化炭素の排出量が表示されるという試みを始めました。お客さんは味やカロリーで選ぶこともできますが、商品に付記された環境負荷の数値を参考にすることもできます。これも、消費者のために選択肢を提供している一例です。
選ぶといえば、選挙も同じです。スウェーデンは80%を超える高い投票率を誇っています。環境意識が高い優れた政治家を国政に送り出すことは日本より簡単です。これほどまでに投票率が高ければ、国民が自分たちで国を動かしているという実感があるでしょう。

葉っぱのマークが付いているのは、エタノールやバイオガスで走るエコタクシー。4台に1台のタクシーにこのマークがついています。 (写真右)Maxハンバーガーのメニュー。CO2排出量が書かれているのがわかりますか?

今回の取材を通じ、持続可能な社会は実現可能だと確信しました。スウェーデンや北欧諸国で実現していることは、他のどの国でも可能なことばかりです。北欧も日本も国民の環境意識の高さは変わらないでしょう。環境技術は日本を含め、世界中で進歩を続けていてコストも安くなってきています。技術はある、経済的にも導入が可能、国民の意識は高い。あとは、これらを賢く組み合わせてシステムとして社会に組み込む知恵と、それを推進する政治的リーダーシップにかかっているといっても良いかもしれません。地球温暖化を始め、環境問題への対応は時間との闘いになってきています。一歩先を進んでいる国々が試行錯誤しながら見つけた優れた仕組みをどんどん取り入れて、日本でも持続可能な社会作りに活かしていきたいものだと思います。



取材・写真:上田壮一(Think the Earthプロジェクト)
協力:高見幸子(ナチュラル・ステップ・ジャパン代表)

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